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戦慄のリンク(2020年製作の映画)
3.6
 突然連絡が取れなくなった従姉の身を案じた大学生のシャオノア(スン・イハン)は従妹の様子をマンションに見に行くのだが、部屋のドアからゆっくりと流れだす鮮血を見て悲鳴を上げる。そして鋭利な刃物で首を突き刺した従妹の死体を発見する。警察は自殺と断定するが、従妹のシャオノアはついこの間電話で話した彼女が死ぬなんて信じられない。従姉の同級生で犯罪心理学に詳しいマー(フー・モンボー aka 竹之内社長)の力を借り、従妹の死の真相を追う。調べていくうちに、従姉のPCに残っていたチャットのやりとりと『残星楼』というネット小説のリンクを見つけるのだ。大学のゼミ教室、構内のベンチ、楽天的な学生との対比などここには懐かしのJホラーとの奇妙な符号が幾つも見える。心なしか映画の色調も90年代後半の勢いの在った頃の乾いた映像だ。『残星楼』というネット小説のリンクを開いた瞬間、気の抜けたオルゴールのような不気味なBGMが流れ出し(これは呪いへのいざないの音として劇中何度も流れる)、PC上の文字を読んだシャオノアは、悪夢のような恐怖に見舞われるのだ。

 今作の恐怖は、呪いのビデオを見た瞬間、恐怖に感染する『リング』と、「幽霊に会いたいですか」という特殊なサイトを開いた瞬間、恐怖に感染する『回路』とのおよそ中間に位置すると見て良い。動画のリンクは不特定多数の人間にランダムに送られるわけではなく、かつて『残星楼』という匿名の小説サイトに関与していたメンバーにSNS経由で送り付けられる。数年ぶりに届いた旧知の友人からのリンクを開くと、閉鎖したはずの『残星楼』に続きが書かれている。しかもそれは『回路』のように見た瞬間、恐怖に骨抜きにされるのではなく、誰々ケースと次に殺される人々の順番をご丁寧にも記したデス・ノートのようにも見えるから不思議だ。

 だが中国映画においては、幽霊がここにいるという描写は、中国共産党に禁じられていて出来ないのだ。Jホラーのような座組みの映画は当然、中国の厳格な検閲には通るはずがない。ここでは井戸から這い上がる貞子のような髪の長い白装束の女を登場させることは出来ない。そこで「ジャパニーズ・ホラーの父」の異名を持つ鶴田法男は考えた。今作の恐怖はいわゆるSNS上で自殺を教唆、扇動する「青い鯨事件」を引き合いに出し、かつて在ったSNS上のコミュニティを見た仲間たちに次々に死の連鎖が迫るという見えないバトンの恐怖を描く。しかも鶴田はトリックアートのようないわゆる騙し絵の効果を用いながら、Jホラー支持者に巧妙にここに幽霊がいるのだと暗喩的に伝える。窓ガラスに一瞬だけ映る女の目も、突然の雷鳴の中、雨風を凌ぐべく入ったカフェの店員の顔は歪に歪んでいる(しかもその隣には巧妙に象られた店員の顔がもう1つ)。映像には明確に映っていないものの、日本人の我々が見ればここには幽霊の気配だけが確かに在る。極めてしたたかな検閲逃れの勝利だ。
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