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アメリカン・ユートピアのmegurosのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
4.8
老境を迎えたアーティストが過去の曲を演奏しているに過ぎないのではないか...とDavid Byrneがなまじ好きだったからこそ警戒して観るまで時間がかかってしまったのだが、杞憂に終わって本当に良かった。いやむしろそれどころの話ではなかった。

自身の楽曲を今の視点から捉え直し、カバーも取り入れてより大きなストーリーとして再編成した上で、コードレスでモバイルな楽器によってテーマに相応しい自由な動きが実現されている。もちろん、当時からその歌詞の中で歌われていたことは変わらず、それに共鳴するからこそ好んで聴いていたわけなのだが、キュレーションによって彼のテーマがくっきりと見えるようになったということ、さらにはそれをずっとやり続けていたことに気付いて感動した(自らの家や住む場所についてこんなに歌っていたとは。生きづらさを常に感じていたことの証左なのかもしれない)

老境を迎えても表現の最前線でクリエイションを続けていて、反転するユートピア(つまりはディストピア)にあって尚、その表現を通じて人類の理想を描き、理想の人類に至らんとする希望にフォーカスを当てていたことにも感動した。

(日本人だと小沢健二がやろうとしていることに近いものも感じる...)

奇妙な踊り、グレーのスーツに白髪、ライブが終わった後の自転車。自分の理想とするようなカッコ良さも詰まっていて、できればこういう形で歳を取りたい。爆音で観た方々が羨ましいです。
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