Born Under Punchesのサビで歌われる“All I want is to breathe”。ジョージ・フロイド事件との重なりは偶然だろうが、まさにそんな思いが躍動しているライブだった。
カッコよくてユーモラスで毒もあって。現状の世界最高峰のエンターテイメントと評価されるのも納得。スーツが照明によって色んな色に見えて、ドラムもキーボードもギターも、配線に縛られずに自由に動き回る。ひたすら心地良い2時間だった。
私自身はトーキングヘッズには全然詳しくないです。世界の音楽を取り入れながら頭の良さそうな曲を作ってる人、くらいのイメージ。なので今回、文化盗用の文脈でデヴィッド・バーンが批判されてきた事、過去の黒塗りパフォーマンスを自ら謝罪した事を初めて知った。白人男性の彼が過去を背負いながら変わっていく姿勢がステージに表れているし、「自分が変わらないといけない」と言い切ったMCが印象的だった。
居心地の悪いHouse=分断のアメリカに「かつてあった理想郷」を取り戻すために歌い踊る旅人の隊列は、人前で大きく呼吸する事すら眉をひそめられる今、本来の文脈を外れた輝きをも放っていたと思う。客席に入っていく場面で、「こんな光景が普通だったんだよな」と思って泣いた。気難しいインテリのイメージだったデヴィッド・バーンが、観客に囲まれながら最高の笑顔を見せているところで泣いた。途切れたシナプスが外へ外へ再生されていく、エンドロールも素晴らしかったです。84点。