このレビューはネタバレを含みます
落ちぶれた元ロデオ・スター "マイク"
荒れた生活を送っていた彼は、かつての雇用主から仕事を持ちかけられる。「メキシコにいる息子を父親である自分の所に連れてきて欲しい」
しかしそれは誘拐紛いの計画…恩もあり断れないマイクはメキシコにいる少年の元へと向かう。
主人公マイクが語る言葉はイーストウッドが演じるからこそ重みが増す、燻し銀なロードムービー。彼の作品が好きなら観て損はない。ただ個人的にはもっと深い所まで掘り下げて欲しい気持ちもあった。若干脚本の弱さを感じる。
『運び屋』と『グラン・トリノ』を足して割った印象なのだけど、それもその筈、脚本はどれも同じ方。運び屋の牧歌的な雰囲気とグラン・トリノのテーマ性を併せ持った作品で、テンポはいいのだけど尖った所はない。イーストウッドが最大の魅力的だけど、イーストウッド頼りなところがある。
そんな所も含めて私は好き。長所が短所だけど私はそこ込みで噛みしめてにやにやしたい。あと往年ファンのニヤリポイント、イーストウッド久々の乗馬シーン有。私は『許されざる者』も『荒野の用心棒』も近年観たので「この間も乗ってたじゃん」って気がしたけど多分そんなことはない。
良くも悪くも”もっと観たかった”という印象が強いのが3.8の理由。掘り下げがもっとあったら良かったのにと思う点がいくつかある。例えば少年のキャラクタ-、確かに自分をマッチョだと言って大きく見せようとしている未熟さや幼さは伝わってくるし、家庭環境がよくないことも十分描かれているのだけど、彼自身の性格が描き切れていなかったような気がする。
どうしても比べてしまうグラントリノは対照的に、少年側のキャラクターがハッキリしていた。だからこそお互いの成長や変化が見えていたのだと思うのだけど、ちょっとシンプルにそぎ落としすぎている印象。
少年の母親がかなりぶっとんだ人物であるというのは伝わってくるが、情緒が不安定すぎていまいちキャラクターが読めない。元雇用主の父親も同様。こちらは電話でのやりとりでどのような思惑があるのか明らかになるけれど、マイクと雇用主の関係性も語られるのみで明確なエピソードは殆ど描かれない。
それはマイク自身にも言えること。会話の端々で語られる過去や写真や新聞の切り抜きで、彼の栄光は語られるものの、妻や子供に関してどのような感情を抱いていたか等は謎が多い。
観る側に想像させることで深みを持たせたり、多くを表現しないことで実際の会話で知った情報から想像するのはある意味リアルなのかもしれないけど、映画として観ると少し物足りない気持ちにはなった。少年のその後ももう少し書いてくれてもさー的な…。
それでも2人の関係性と成長は映像で魅せていて、ドラマティックではないけれど心にしみるロードムービーになっていると思う。
不思議なタイトルだなと思ってたけど、まさか鶏の名前とはなぁ