Yoshishun

アレックス STRAIGHT CUTのYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

アレックス STRAIGHT CUT(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

"ギャスパー・ノエの原点、画で魅せる徹底した暴力"


幸福→レイプ→復讐という時間の流れを逆転させ、時間の不可逆性を描いたギャスパー・ノエ監督作『アレックス』。本作は、販売済DVDの特典として収録された時間軸順行バージョンを、劇場用映画としてアップグレードさせたような作品。

イタリアの至宝と呼ばれるモニカ・ベルッチへの衝撃の9分間にも及ぶレイプシーンが最も有名ではあるが、終盤に顔面崩壊ゴア、またバイオレンスだけでなくドラッグ、猥談をこれでもかと描いていく。公共の場でセックスについて激論する下りはかなり滑稽だが、同時に今後の運命を想像すると馬鹿馬鹿しい語り合いも幸福な時間だったと思えてくる。

オリジナル版はまだ鑑賞したことがなかったため、衝撃的な場面の連続には圧倒されっ放しだった。視覚的に不快感を与えまくるOPの点滅と回転シーケンス。これから始まるストーリーがいかに破滅的かを伝えるような演出に目眩がしてくる。公衆の面前で堂々とセックス談義をし、アレックスの今彼マルキュスが狂っていくドラッグパーティー。そして、モニカ・ベルッチをこれでもかと痛め付けられる様子をノーカットかつ定点で捉え続けるショット。その後のレイプ犯を追い詰めていくシーケンスでのトリップ状態のような熾烈さ。2年前に『CLIMAX』を鑑賞したが、本作から既に監督の持つ不快演出は確立されていることがわかる。

敢えて時間軸を元の流れで描いたというなら、オリジナル版はもっと希望に満ちたエンディングとなっていたのだろう。今彼との間に子どもができ、これからの幸福な生活を思っており、冒頭の公園での一幕へと繋がる。ところが、本作は冒頭が同じシーンからスタートするため、夢でもなんでもないという絶望感がより一層増した最悪なものとなっている。

感情の起伏をカメラワークで演出している点も面白い。アレックスが性的暴行を受けた事に対し、マルキュスは激昂しながら犯人であるテレクを探し出す。その時のカメラの揺れは異常で、マルキュスの押さえきれない怒りが爆発(ドラッグの影響もあるかもしれないが)、マルキュスの眼前のものしかみえていない様子がパワフルに描写されている。一見、無理に長回ししているだけかもしれないが、本作では機能していたように思う。

まあストーリー自体は、タイトル通り、取り返しのつかない、やるせない結末を迎えるので、娯楽性は皆無。復讐しに行って何も解決できずに終わるという無力さの残るバッドエンドとなっている。演出のおかげで最後まで観れる作品になっているため、画期的な手法を除けば少し凡庸さも否めない。また、ゲイバーでの一幕は、『CLIMAX』の地獄絵図以上に訳の分からない映像になっており、台詞任せにストーリーが進んでいるのも残念。また、序盤の猥談も少し退屈な印象を受ける。

とはいえ、逆順で進行していく画期的な手法を取り入れた問題作が、約20年の時を経て復活したのは、コロナ禍も落ち着きをみせた今平和ボケしつつある現代人への強烈なメッセージにもなりうる。たまたま1人で、いつもと違う道で帰っただけのアレックスのように、いつ、何が起こっても本当はおかしくない状況を顧みる必要があるかもしれない。勿論、ノエ監督の作家性、手法が爆発した映画としての完成度の高さも秘めているので、公開劇場は極めて少ないながらもオススメしたい。
Yoshishun

Yoshishun