Eike

ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカットのEikeのレビュー・感想・評価

3.5
この10年ほどの間に起きた米映画界最大の変化はMarvel+ディズニーによるフランチャイズ展開とストリーミングサービスの本格普及だろう。
自社のヒーローコンテンツの映像化で台頭したMarvelスタジオがディズニーの傘下に入ったことにより正に「鬼に金棒」状態。

しかし、元来アメコミの「本格映像化」と言えばDCブランドを抱えたWarner Brosスタジオの十八番だったはずなのだ。
スーパーマン然り、バットマン然り。
それがデジタル化の波に乗り遅れたことでMarvelに水を空けられてしまった訳ですが、そこで同スタジオがかじ取りを任せたのがデジタル製作に通じたザック・スナイダー。
彼にスーパーマンとバットマンというアメコミを代表する2枚の金看板の「夢の競演」を一任したものの、対Marvelの本命としては期待にそぐわない結果に。
しかし他に打つ手がある訳でもなく、矢継ぎ早にフランチャイズを拡大するMarvelに追随するため、スナイダー氏を引き続き起用してDC版Avengersと言うべきJustice Leagueの製作に着手したものの、諸般の事情により、完成を見る事無くスナイダー氏は降板。
後任として呼ばれたのがAvengersの2作での手腕を買われたJoss Wehdon。
彼は元々TVのWBネットワークでの活動が長かったこともあっての起用かとも思われる。
しかし出来上がったのはどうにも中途半端な娯楽作でした。

この「失敗」は、結果としてMarvelの覇権を世に知らしめる結果となったと言えるでしょう。
この劇場版Justice Leagueに不満を覚えた一部のファンがスナイダー監督によるオリジナル版の公開を求め、届けられたのが本作である。
とは言え、劇場公開済みの作品を別の監督の作品として再公開することなど許されるはずも無く、結果としてワーナーブランドのストリーミングメディア、HBO Maxにてお披露目となりました。
最大の特徴はやはりディレクターズカットとして4時間を超える長編として再編集されたこと。
もう一点は劇場公開作とは別の作品であることを強調するためでしょうか、画面比率がワイドスクリーンではなく4:3となっていること(やはりこれは昔のTVみたいで違和感が…)。

スタジオ側の編集によって作り手の意図とは異なる形で映画が公開されるなど珍しくもない訳で、ストリーミングでの公開であろうと、「完全版」が世に出ること自体は歓迎できるでしょう。
しかしそれが当たり前になるようだと映画という芸術作品の持つタイムカプセルとしての役割が損なわれる可能性も否定できない。
映画はあくまでその時代を切り取った作品であり、常時バージョンアップされる「製品」などではないはずなのだ。

閑話休題
今回のSnyder’s Cutは4時間を超える長編だが、いくつかのパートに分けられていて、その語り口は至ってスムーズでスルスルとストーリーに浸ることができるものになっています。
そもそも6名のスーパーヒーローのプロフィールと活躍を紡ぎながら一つの物語に仕立て上げるにはこの位の分量は元から必要であったということでしょう。

本作の劇場公開バージョンが中途半端に思えた最大の理由は今回のSnyder’s Cutの素材の大半を使いながら全体のトーンを変更しようとした点が大きい。
J・ウィードンは恐らく、よりポップでアップビートな作風にすることを要求されたのだろう。
ただ、当たり前だが全編にわたる撮り直しは許されなかった訳で、使用した素材の大部分は今回のいささかダークなイメージの世界観に立脚したものであった為に、結果としてどうにもちぐはぐとした印象がぬぐえなかったのだ。

しかし劇場公開された2時間のバージョンとその倍の時間を使う事を許された今回のバージョンを同列に見て批評するのはそもそもフェアとは言えないでしょう。
個人的に感じるのは老舗の「映画スタジオ」であるワーナー映画スタジオが新興のMarvelに対抗するのに同じ方法論を採用したこと自体が正しかったのかどうかという事だ。

従来の映画製作や伝統に対して思い入れなど無く、何のためらいもなくデジタル製作とフランチャイズ展開に突き進むことができたMarvelに対してWarnerには老舗の映画スタジオとしての矜持を持っていただきたい。
願わくば、より一本の作品ごとの質を上げていってもらいたいところであります。
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