とらキチ

映画検閲のとらキチのレビュー・感想・評価

映画検閲(2021年製作の映画)
3.8
80年代英国、サッチャー政権下で俗に“ビデオ・ナスティ”と呼ばれる、内容が暴力的・猥褻であるとして発売禁止措置をするための事前検閲が為されていた時代。ヤリ手の検閲審査官の女性が、とある作品をきっかけに現実と虚構の狭間に囚われていく。
今作は主に映像関連について描いたストーリーだけど、フォロイー様がレビューで言及していて思い出したが、当時の状況を音楽関連、特にHR/HM界隈で言えば「息子が自殺したのは曲に含まれるサブリミナルメッセージが原因」との荒唐無稽な理由でジューダス・プリーストが裁判を起こされたり、トゥイステッド・シスターが音楽倫理団体からクレームの槍玉に挙げられたりした、そんな世相の頃を舞台にした作品。
あの頃量産されたB級のスプラッター・スラッシャーホラー、更には“VHS📼”というメディアへのオマージュに溢れた作品。また、社会不安の原因をスケープゴート的にこれら映像作品に押し付け、“検閲”で見せかけの健全性を保とうとする世の中の馬鹿馬鹿しさを描いており、そこにプラスして、当時本格的に社会進出し始めたばかりの女性に対する蔑視的な視点も加わる。そしてこの状況、40年後の日本に於いてもほとんど変わらず当て嵌まってしまう…というのがなんともはや…。
プロットは、次第に虚実ない混ぜになっていく展開で、序盤から中盤にかけて色々と伏線が敷かれるのだが、それが終盤に回収しきれず、ちょっと雑に処理され“投げっぱなしジャーマン”状態になってしまっていた印象。“サスペンスホラー”としてはビミョーだけど、それでも個人的には充分楽しめた。
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