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ムニュランガボのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ムニュランガボ(2007年製作の映画)
3.5
【ミナリの監督がルワンダで叫ぶ「殴るより歩け!」】
先日、フォロワーさんから「ブンブンさん、『Munyurangabo』ご覧になってますか?」と訊かれた。「むにゅ...何??」と思っていたら、今第93回アカデミー賞にノミネートされている『ミナリ』監督のデビュー作なんだとか。韓国系アメリカ人であるリー・アイザック・チョンが全編ルワンダで撮影したアフリカ映画と聞いて私は黙っていなかった。アフリカ映画好きとして「Why not?」しかない。Vimeoでレンタルされていたので観てみました。

『Munyurangabo』はリー・アイザック・チョンの妻がルワンダ旅行に行ったことから始まった。結婚したばかりの監督は彼女からハネムーン旅行としてルワンダを提案されて、折角行くなら映画のワークショップを現地で開こうと思いついた。当初はショートフィルムができればいいレベルに考えていた彼でしたが、ルワンダのことを知るうちに長編映画として制作された。そしてデビュー作にして第60回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品される快挙を成し遂げる。カンヌ国際映画祭は毎年アフリカ映画枠がある。ただ、欧米監督が手がけるアフリカ映画も入選しやすい傾向があり、最近だと第71回カンヌ国際映画祭に出品されたエジプト映画『Yomeddine』が記憶に新しい。本作はニューヨーク大学ティッシュ芸術学校のプロジェクトで制作された作品であり、A・B・ショウキー監督が撮ったハンセン病患者のドキュメンタリー『El Mosta’mara』を劇映画として膨らませている。

この手の映画は、どうも欧米映画チックになりがちで悪い意味でオリエンタリズムを刺激する映画になりがちだ。目新しい風景が映り映画的だと錯覚するが、問題に対して表面的になっていないかを気にする必要がある。そう考えた際に『Munyurangabo』はルワンダ人のルワンダ人によるルワンダ人のための映画になっているところが素晴らしい。ルワンダは『ホテル・ルワンダ』でもご存知な方多いと思うが、フツ族過激派がツチ族を虐殺する凄惨な出来事がありました。長年啀み合うフツ族とツチ族の軋轢はそうそう簡単に癒えることはありません。人として見ようとしてもどうしても人種というものがノイズになってしまう閉塞感をリー・アイザック・チョンは汲み取っている。

冒頭、市場で大人が殴り合いの喧嘩をしている。Munyurangabo(Jeff Rutagengwa)ことNgaboはドサクサに紛れてマチェーテを盗む。次のカットではそのマチェーテに血が付いている。人を殺めたのだろうか?そう思っているとマチェーテから血が消えている。どうも彼は心の奥に暴力性を抱えており、誰かに復讐したがっているようだ。そこに相棒Sangwa(Eric Ndorunkundiye)が現れる。

「支度は終わったかい?」

彼らはヒッチハイキングしながら旅を続ける。その道中Sangwaは故郷に戻ってくる。3年間家出していた彼に対して母親は抱擁するも、父親はいい顔をしない。Sangwaのナップサックにマチェーテが入っていることや、Ngaboの正体に不信感を募らせている。Sangwaは数時間だけ滞在する予定だったのだが、なんだかんだで泊まることになり泥を塗ったり、水を汲んだりして家事を手伝うことになる。

ここで二つのエディプスコンプレックス物語が絡み合う。一つはSangwaが母親の愛情を受ける為にたち憚る父親の存在。もう一つは家族と一体化する中で、自分だけ仲間外れにされてしまったNgaboが嫉妬しどうにかしてSangwaを取り戻そうとする話だ。そこへルワンダに蔓延するフツ族がツチ族の軋轢が絡む。Ngaboは大虐殺に遭ったツチ族だ。それだけにフツ族にはモヤモヤしたものがある。しかしながら、Sangwaとは堅い友情で結ばれている。だからこそ、Sangwaが父親を復讐することを好まない。Sangwaが出て行くなら自分が出て行くとマチェーテを引き取り旅を続け、その道中で詩人と出会い、ルワンダの平和を願う詩"Liberation is a Journey"を聞く。これが感動的である。

族というマクロな視点での軋轢も微分したら人と人との関係である。暴力をグッと堪えて、前に進もうとする希望的なエンディングで終わる本作は『ミナリ』に引き継がれる。移民としてアメリカに流れ着いた者が逆境に耐えながらパワフルに前に進む姿と重なる。リー・アイザック・チョン監督の「殴るよりも歩け」精神がデビュー作から既に現れていた。

一見、遠い国ルワンダの映画。それも欧米の香りを完全に消して作られたルワンダ映画であるが、そこには普遍的な暴力の連鎖を止める物語がありました。
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