レインウォッチャー

エル プラネタのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

エル プラネタ(2021年製作の映画)
3.0
『El Planeta』=惑星、なんてタイトルから、…SF?なんて思ってたら違って、でもあながち間違ってはなかった。
ジリ貧明白な日々を息も絶え絶えになりながら、しかし上辺を繕うことはやめ(られ)ず暮らす母娘、彼女らの生活と哲学は遠い別の星みたい。

舞台となるスペインの街ヒホンは海辺にあって、常に波が打ち寄せる。海はその隣で暮らす小さな人々の毎日なんて知らない顔だけれど、波は確実に母娘の足元まで来ている。踝を濡らし、膝をとらえてなお、彼女らは上を見るのにばかり忙しい。

普通なら「いや働けよw」で終わる話なのだけれど、彼女らのナチュラルな振る舞いは「たぶんもうこのようにしか生きられない」という《生態》を思わせるものがある。本人の怠惰とか、社会や不況のせいとかいったクリシェを超えた偏屈さの片鱗。この先にはもしかして『グレイ・ガーデンズ』(※1)があるのかしら。

特にクセ強な母親のほうは一体これまでどういった半生を歩んできたのか(娘からも「一回もまともに働いたことないでしょ」とか言われる)、最後まで断片的にしかわからないのだけれど、むかしの飼い猫(かわいい)を偲んでばかりいる様子から、ああ過去にしか生きていない人なんだとわかる。

あと漠然と思ったことは、こういったある種《フッド》な関係性って、「母と娘」でしか成立しなさそう、ということ。たとえば「父と息子」ならこうはならない(なれない)のではなかろうか。共犯者より前に、告発者になる気がする。これはどちらが優劣・良し悪しというわけではなく、単に違いの話だけれど。

"悪い未来もいいでしょう
あたし待ってるって 待ってるってよ"
ー a子『惑星』

-----

監督・脚本・主演を務めるアマリア・ウルマンはマルチアーティストとして活躍する才人とのこと。母親役も実母。

総合プロデュース感が伝わる作品でもあったと思う。ファッション・小物のセンス、場面転換時に多用される特徴的なアイリス、カモメの声にエフェクトをかけたりする音響的な遊び、etc.

-----

※1:https://filmarks.com/movies/80072/reviews/148056518