kupa

偶然と想像のkupaのネタバレレビュー・内容・結末

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

濱口竜介監督による3話からなる短編オムニバス。どの話もよくある日常の風景かと思わせて、そこから予想外の展開にスッと移行していく瞬間の切れ味が抜群で痺れる。会話劇の面白さを存分に堪能することが出来る。

第1話「魔法(よりもっと不確か)」

夜の帰りのタクシー内、玄理が親友の古川琴音に熱心に自身の恋バナを話す場面から始まる。運命的な出逢いをしたその男性が元カノを引きずっていることに不安を吐露する玄理を先にマンションに送り届けると、古川琴音を乗せたタクシーは突如来た道を引き返す。

古川琴音はタクシーは青山にある洒落たビルの前に止めると、慣れた足取りでズンズンと上階に上がっていき、まだ明かりが灯っている設計事務所にいた若い男を訪ねる。

なんと先程の会話に出て来た元カノとは古川のことだったのだ。

別れて2年ぶりに会った2人の距離感が絶妙。お互い相手のことを今でも憎からず思っていて、それでも別れるに至った些細なズレの積み重ねが蒸し返されイラつく思いも。

それで溢れる思いを堪えられず中島歩が古川琴音を抱きしめようとすると。。。

そして5日後、玄理と古川琴音は喫茶店の窓際で向かい合っって話している。これから彼に会うという玄理に元カノが自分であることを明かそうか悩む古川。するとそこに通りかかった中島歩が。

ラストのキレ味がまた抜群で唸らされる。


第2話「扉は開けたままで」

渋川清彦演じる大学教授の研究室で、彼の前で土下座して単位を求める男。マスコミへの就職が決まっているのに、その単位がないと留年してしまうという。

アカハラを疑われるからと研究室の扉を閉めようとする助手に対し清原は言う「扉は開けたままで」。

結局男は留年する。留年した男を演じるのは仮面ライダーパラドの甲斐翔真。彼は部屋で森郁月演じる女子学生と逢瀬を楽しむ。森は結婚出産後に大学に入り直したが周りの若い女子には溶け込めず浮いた存在。そんな彼女に唯一声をかけてくれた甲斐と今ではセフレの関係だ。

一戦交えた2人がTVを付けると、そこには作家活動もしていた渋川教授が芥川賞を受賞したというニュースが。アナウンサーとしてニュースを読むはずだった自分を夢想し、自分を留年させた渋川を逆恨みした男は、森郁月を使ってハニトラを仕掛けて復讐しようと思いつく。

後日、森郁月は受賞作の著書を手に渋川の研究室を訪れる。自分も渋川の授業を受講していた事を告げ著書にサインをねだる。

2人きりの状況を作ろうと研究室の扉を閉めようとするが渋川は言う。「扉は開けたままで」

森郁月は扉を開けたままで渋川の著作の情交シーンを読み上げる。際どいワードを淡々と落ち着いたトーンで読み上げる様が実にエロい。

それでも靡かない渋川に観念して森はスマホを取り出して今までのやり取りを録音していたことを詫びる。

すると渋川は怒るどころか驚くべき提案を。

「その録音データを貰うことはできないだろうか」

その後の展開は予想はつくのだがホロ苦い結末が余韻を残す。おヒゲ顔の渋川清彦のダンディさが実にいい味わい。


第3話「もう一度」

仙台の女子高の同窓会に卒業後初めて十数年ぶりに出席した主人公の占部房子。彼女には会いたかった友人がいたのだが同窓会に彼女は来ていなかった。

その翌日仙台駅に向かうエスカレーターを上っていると、上からその彼女が降りてくるではないか。

慌てて追いかける主人公の占部。すると相手の河井青葉も彼女を追って来た。

再会を喜び彼女の家に向かう2人。道々で思い出を語り合うのだが微妙に会話が合わない。彼女の家に辿り着き更に会話をすればするほどその違和感は拡がっていく。

思い詰めた河井青葉は占部に訪ねる。

「ところで貴方の名前はなんだったかしら」

親友だと思っていた彼女からそんなことを聞かれてショックを受ける占部だったが、更に衝撃的な事実が分かる。

河井青葉は同級生どころか別の高校に行ってた赤の他人だったのだ!!!

この歳になると高校や大学の同級会に参加して、顔は何となく分かるけど名前が出てこないなんてのはあるあるだけど、そんなシチュエーションを膨らませたプロットがまずは秀逸。

そしてそんな状況で知り合った見ず知らずの2人が、やがて心の奥底に仕舞い込んでいた思いを打ち明け合う流れが胸アツ。
kupa

kupa