安堵霊タラコフスキー

偶然と想像の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

偶然と想像(2021年製作の映画)
4.8
演劇的性質とシリアスな笑いの要素、そして中々の感動が味わえる良質な短編集。

まず最初の短編は、内容に下らなさも感じられるけれどもその会話の下らなさとかに面白味があるように思えたり、ホン・サンスやロメールっぽいズームで予想外な効果を生み出していた点が好印象で、その効果も相俟って終幕も爽やかになっていたのが良かった。

そして次の短編もこれまたやり取りに下らなさを覚えるところがあったものの、知的ながらも童貞臭さすら漂う渋川清彦のキャラクターがラーメンズ的な味を齎していたこともあり段々と愉快な心地になり、それでいてその渋川清彦が最後にチョロっと良いことを言う意外性もまた心に残る一編で、存外な面白さが好印象だった。

しかし特に素晴らしいと思えたのが最後の短編で、キアロスタミのトスカーナの贋作を濱口竜介流に料理して素敵な心の交流に仕上げていたこの一編で終わっていた点も作品全体の高い評価に繋がったとすら考えられる質の高さには感服するしかなく、ドライブマイカーでプラス方面に強まった濱口竜介という監督の印象が更に自分の中で高まることとなった。

作品としての見事さで言えば流石に21世紀の最高傑作とも言えるドライブマイカーの方が優っていたように感じたとはいえ、その傑作とはまた違った良さが出た作品群となっていた様子に満足感を覚える出来で、600円×3(=1800円)以上の価値は余裕であったからもっと早く見ておけば良かったと少し後悔もするくらい。