ふじこ

対峙のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

対峙(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

学校で銃を乱射する事件を起こし、その場で命を断った少年の両親と、息子を事件で殺された両親が対話するお話。

日本ではこんな機会自体なさそうだなぁ。例えば交通事故なんかで被害者が出た時に、加害者がご遺族に謝罪に出向くのとかはあるのかも知れないけれど。
わたしとしては、子供もいないし持つ気もないのでどちらの両親の気持ちも分かるはずもないのだけれど。
ただただ居心地が悪くて居た堪れなくて、じっと見守るのが難しかった。

ぎこちない空気で家族の近況を話し、残されたそれぞれの子のことを話し、どんな子だったのか、どうして事件が起こったのか、どのようにして被害者は亡くなったのか。時に声を荒らげ、涙しながら。
加害者である子の親は、あの子がいなければ世界はもっと良かったかもしれない、それでも愛している と語る。
でもそうして語り合った末に、一方的に撃たれて苦しんで死んだ子を持つ両親の気持ちも変わっていく。
あなた達に出来るだけ苦しんで欲しかったけれど、赦します。あなたの息子のことも と。

事件が起こってから6年、恐らくお互いにずっと苦しみ続けたのだろうけれど、被害者の母親が最後に言う
"今のままでは生きられない、夜も眠れず息もできない"
"あまりにも苦しすぎる 違う過去を求めることが"
"このままではあの子を見失ってしまう"
"だから赦す 赦します"
と泣きながら夫に、相手の両親に語るシーンで思わず涙してしまった。

赦しを与える と言うけれど、それは決して請わなくてはいけない側だけではなく、赦しを与える側の人間もまた、
どこにも行けない、一生背負っていかなくてはならない大きな荷物をひとつ下ろせることにもなるんじゃないかなあ。
そして、だとしてもそれは決して簡単に出来ることでも、誰もが出来ることでもない。
被害者の両親が相手の両親と会うことをセラピストに勧められた理由はこの辺にあるんじゃないかな。
もし実際に会って、赦します とは言えなかったとしてもきっと何か変わるものもあるのではないだろうか。
仮に、より深く相手を憎むことになったとしても。

そして最後に聖歌隊の練習する歌が聴こえてくる。
結ばれた絆に祝福あれ。互いの苦しみを分かち合い、互いの重荷を背負い、そして同情と共感で時に涙する。
別れの時には胸が痛んでも、今でもずっと心で結ばれたまま。また会える時を願って。
といった、まるで本編に沿ったような聖歌に涙して手を握り抱き締め合う夫婦。
(Blest Be the Tie That Bindsという曲)

そして冒頭の方から度々インサートされる、枯れた草の荒野に張られた粗末な柵の有刺鉄線にひとつだけ風にたなびく赤い目印のテープが、夜を迎えると共に遠くの大きな投光機に照らされて終わり。
こういう叙情的な演出、すき…。
どうしよう…どうなるの…?とただただそわそわしていた本編からのこの終わりはとても好きだった。

ひたすら、過去や原因やどうすれば良かったのか という取り返しのつかない事を求めるばかりの生活を手放すことが出来て良かったのだと思う。すぐには無理だったとしても。
ふじこ

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