凛太郎は元柚彦

対峙の凛太郎は元柚彦のレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.5
とにかく掴みどころがない。この対話の始まりも着地点も一切わからず、案の定歯切れの悪い空間に、終始不安だった。これが被害者と加害者という立場なら、もっとわかりやすく、憎しみだの怒りだの罪悪感だのがハッキリして目的も明瞭だったはず。
だが、本作で重要なのは言うまでもないが「被害者の親と加害者の親」という構図で対話が進んでいくところである。
被害者の親も加害者の親もそれぞれ癒えない傷を抱えてる。解決しようがない問題を抱えてる。だが、互いに理解することができない。
この世界において他者との〝理解〟は不可能だという絶対的ルールを心底痛感しながらも、理解しようと努める姿勢をみせる。それが社会で生きていく唯一の術だからだ。だが、埋まらない孤独とやり場のない怒りや悲しみはだんだん虚無に変わっていき、鬱が人間としての判断や倫理観を狂わせる。
本作のテーマは〝理解〟じゃないか。
なぜ銃乱射事件が起きたのか。なぜ犯人はこのような事件を起こしたのか。
その根本的な原因は、この二時間の会話に隠されている。しかし、それを見破ったとて解決法はないというのがこの映画で語られる虚無の恐ろしさだ。
結局本編は、他者や世界に何かを求めることを辞め、赦しというエゴでもって折り合いをつけ自分の中の世界で完結させる、という結末で終わる。
答えの存在しない問題提起を突きつけられた気分である。