MasaichiYaguchi

白い牛のバラッドのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

白い牛のバラッド(2020年製作の映画)
3.6
イランの厳罰的な法制度を背景に、「白い牛」が象徴する“生贄”のような冤罪によって夫を失ったシングルマザーの姿を通し、社会の不条理と人間の闇を炙り出すサスペンスドラマは、改めて死刑と冤罪について考えさせられる。
テヘランの牛乳工場に勤めるミナは、1年ほど前に夫のババクを殺人罪で死刑に処されて失い、寡婦となる。
深い喪失感を抱え続ける彼女は、聴覚障害で口の利けない愛娘ビタを心の拠り所にしている。
或る日、裁判所に呼び出されたミナは、夫の事件の真犯人が他にいたことを知らされる。
理不尽な現実を受け入れられず、謝罪を求めて繰り返し裁判所に足を運ぶミナだったが、夫に死刑を宣告した担当判事に会うことさえ叶わない。
そんな折、ミナのもとに夫の友人だったという中年男性レザが訪ねて来て、あれこれ援助の手を差し出してくれる彼に彼女は心を開いていく。
やがて家族のように親密な関係を築いていくミナとレザだったが、レザには彼女に話していない秘密があった。
舞台となっているイランは死刑執行数が世界で2番目に多いといわれ、事実、主演のマリヤム・モガッダム自身、子どもの頃に父親が政治犯として処刑された過去を持ち、更に彼女の母親の名はミナであり、本作は母親の体験にインスピレーションを得る形で製作されている。
だから、母をモデルにした主人公をモガッダム自身が演じているので、リアルに愛する夫を冤罪で失った女性を待ち受ける残酷な現実が伝わってくる。
そして、全ての事実を知って心の内は激しく揺れ動いたミナの亡き夫への想い、愛する娘との未来を考えた上での最後に下す或る“決断”は、心にズシンと響いてきます。