垂直落下式サミング

明け方の若者たちの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

明け方の若者たち(2021年製作の映画)
3.8
男女がはじめてのセックスにいたるまでの流れ。飲み会で出会ってから、デートして、食事して、夜道を二人歩いているうちに遅くなってきちゃって、これからどうしようかしらと、段取り踏んでそういう雰囲気になっていくのを、丹念すぎるくらいの描写でしっかりと描いていく。
僕が好んでみるような映画だと、さっさとヤリた過ぎるせいで肝心なところ追い越して時短でイッキに事後までいくことが多いから、しっかりと段階と順序を大切にしていることに感心してしまった。
真正面向きの平凡なバストショットからの、深夜の公園でクジラの遊具の隣でベンチに座って語らう男女という決め画が、印象的な前半の見せ場。いろんな構図から会話を切り取っていて、どうってことはない若造の会話なのに、ふたりが相手のことをちょっとづつ知っていく過程に惹き付けられた。
出演者で好きだったのは、同期の桜な井上祐貴。優秀だし人当たりもいい。ぜんぜん嫌なところがなくて、ずっと主人公のことを気にかけて助けてくれていて、常に主人公の何歩も先を走っているような気がしたけれど、退職してベンチャーにいくと言い出したときは青臭く感じて、いろんな不満はありつつも腰を据えてはたらくことに決めた主人公のほうが、もう彼よりもオトナだなって評価がひっくり返ったり。
今に満足してない訳じゃないけど、なんとなく人生がうまく行ってんのか行ってないんだかわかんなくて、右にも左にも曲がれないのに自分の天井だけはなんとなく見えてきた時、ねずみ講どっぷりで落ちぶれちゃった友達の陰口言うの楽しいよね~。社会人長いから「聞いてくださいよ?」って、疎遠になった友達に敬語になっちゃうのがリアル。悪口が酒の肴になったならば、アンタはもう腫れて爛れてオトナの仲間入りだから大丈夫っ!て、痛烈ですね。
あとユニークなのは、音楽ファンへの目配せが多い映画である点、バンド名や曲名を会話に絡めることで、常日頃から音楽文化を共通言語にして会話してそうな青臭い若者っぽさを演出するのは、面白い趣向だった。
RADWIMPSの三枚目は、思いをまっすぐに伝える恋愛ソング。四枚目は、ブルージーな失恋ソング。ふたりは見えているものも見据えた結末も、最初から違ったんだろう。
ともあれ、キリンジのエイリアンズが似合う夜を過ごしたかった。この世界線の富士ロックは、フランツフェルディナンド、ウルフルズ、オーケーゴー、ストレイテナー、なるほどなるほど。知名度もありつつ、独自の評価も確立されつつ、ちょうどいい感じに好感の持てる範囲内でのサブカル傾倒っすね。
名前を出しても世間様に恥ずかしくないようなバンドたち。ここにオレンジレンジやリンプビズキットが入ってくるのなら、お友だちになれますが、こちとらビレバンにすら居場所ないんだから、下北沢や高円寺なんてとてもとても…。
田舎MEGAドンキの民は身の丈にあわせて、駐車場のヤン車にドキドキしながら、エコバック片手に生活雑貨でも買いそろえてなっ、てことー?(被害妄想)