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ボーはおそれているのbarthelemyのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.3
母の支配による抑圧と
水(=母による愛情)の話。(羊水からの誕生、プールでの溺れ、水と共に飲む薬と欠乏、アパートメントでの入浴と溺れ、ラスト舟での裁判所(子宮)への胎内回帰(ここで歌声が聞こえ、舟が転覆させられるのは女の怪物であるセイレーンに対応。)など)
モナのヴァッサーマンは水の男。
モナには息子へ過度に愛情を注ぐ面と、男のようにボーを性的加害する面が存在することを隠喩。

鍵を盗ませたのは母、
帰れないと言ったボーに罰として水を与えない=愛情を与えない。
薬物中毒者の町に意図的に住まわせることで母なしには生きられなくする。
毒蜘蛛とは、母による呪縛のこと。
見知らぬ男と共に浴槽で溺れ、過剰に恐怖するがそれは過去のモナによる性的虐待をボーに連想させるから。明確にアリアスターはフロイトを引用と発言。(母親からの風呂場での性的虐待という過度なトラウマを心の奥に封印するものの、それはいつも思い起こされる。そしてそのトラウマの真実は、蜘蛛のような触覚をもつペニス(野心)と、それを倒そうとするジーブス(勇敢)。ボーは優しさのみ持っている。オズの魔法使いで言うところの、勇気はライオン、優しさはブリキ、野心は案山子に対応。この勇気、優しさ(知恵)、野心は劇のシーンで話している。)つまり、母からの性的虐待でボーは勇気と野心を奪われている。実家のモナと劇中のボーの妻(男に見える)が酷似。

ボーは飛行機、葬儀などで
鍵忘れ、グレース家の手術、母のプレゼントを贈呈、といった問題で
母親を優先しなかった。
だからその従業員であるトミーはテストに失敗と発言。

各シーンで、
風呂:ボー、見知らぬ男、蜘蛛
グレース:ボー、ト二ー、ジーブス
グレース:ボー、グレース、ロジャー
実家:ボー、モナ、セラピスト
屋根裏:ボー、双子、男根
胎内:ボー、モナ、検事
と三者の構図とルックスが酷似。


腹を刺されるのはキリストの磔刑に対応。
3日後にボーはよみがえっている。
ヘル、リンボ界、ヘヴンは
グレース家、森、実家に対応。


これは苛まれたボーの妄想なのか、
あるいはトゥルーマン・ショー的なのか、
どうなのだろうと解釈しようとしていたが、その方向は誤っていたな、と見終えて気づいた。

オープニングの
MHが母の会社と気づき、ゾワッとした。
ボーはADHDと不安障害を抱えており、
有能な母は自社製品でその性質を
矯正 しようとする(薬の名前がDoitol)がなかなか上手くいかないし、理解もできない。ボーは自己選択できず、どうすればいい?と冒頭の飛行機逃しのシーンから擬似家族の父、様々な人へ選択を委ねる。
ボーの母親は莫大な金をかけてトゥルーマン・ショーのように演劇を作り、そんな"ダメ"なボーを糾弾する。しかし、その実いつまでも性的に不具であって欲しいし、いつまでも子どもであって欲しいし、最後は自身の羊水のメタファーに溺れさせ、完全にボーを母親の物とする。圧巻だ。

母にとって、
父は男根でしかなく、
ボーは作品でしかない。
母にとってボーの父が男根?

ミッドサマーやヘレディタリーと同様に、
最後は母によるハッピーエンド。
胎内回帰するボーに満足げ。
裁かれるべき母は決して裁かれない。

常に理不尽とナンセンスが
押し寄せる悪夢が3時間続き、
答え合わせは最後にされるわけではなく、
物語に散りばめられているのでそれを拾い集めるしかない。(冒頭のMH、社会更生施設、今まででてきた登場人物が写真だった、と実家のポスターを見て気づくなど。)
そしてテーマはかなりアリアスター個人の内面に特化している。
表現技法、話の展開、テーマともにかなり上級者向けかも。
結論相当楽しめた。
でもミッドサマーやヘレディタリーのような分かりやすい美しさやカタルシス、テーマが薄いのでそこは大衆受けしなさそう。
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