キャッチ30

ボーはおそれているのキャッチ30のレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.8
 主人公であるボーはいつも不安を抱え、精神科医に通っている。彼は治安の悪い地域に1人で住んでいるらしいが、周囲にいる人々は現実なのか妄想なのか判断がつかない。ボーは父親の命日に帰郷することになっていたが、当日に寝坊して鍵と旅行カバンを失くしてしまう。その旨を電話で母親に伝えるが罵られて切られてしまう。再び母親に電話しようとするボーだったが、今度は見知らぬ男性が出て、「母親は怪死」したと知らされる。母親の弁護士から埋葬までに戻らなければならないと聞かされたボーは帰郷の旅に出るが行く先々で酷い目に遭う……。

 ボーと母親の関係は屈折している。ボーは典型的なマザコンだ。優柔不断で母親の言いつけは守らなければない性分だ。また、母親から父親は腹上死したと聞かされたために中年になっても童貞だ。彼の母親モナは息子に支配的だが精一杯の愛情を注いでいた。

 また、今作にはユダヤ教の戒律が絡む。喪に服している時は禁じられている風呂に入ったり、キリスト教の夫婦と食事をしたり、結婚前に童貞を捨てたりと、ボーは無自覚に戒律を破っている。そう考えると、ボーに罪があるというのは宗教的には間違っていないというのはナンセンスだろうか。「イエスはお前の忌まわしき行為を見ている」という看板も記憶に残る。

 今作は悪夢映画であり、不条理コメディであり、マザコン映画とも言える。監督のアリ・アスターはボーの悪夢のような里帰りに観客を巻き込む。好き嫌いが分かれるのは当然の反応だと思う。