somaddesign

鳩の撃退法のsomaddesignのレビュー・感想・評価

鳩の撃退法(2021年製作の映画)
3.5
藤原竜也が膝ついて慟哭する藤原竜也なシーンがなかった。


:::::::::::

かつて直木賞を受賞した天才小説家・津田伸一だったが、今は地方都市でデリヘルの配送係としてうだつの上がらない日々を過ごしていた。ある日古書店の老人から現金3000万円超の入ったトランクを形見として託される。突然転がり込んだ大金に驚いたのもつかの間、それが偽札だったと知り……。一方、担当編集者の鳥飼なほみは津田が執筆中という新作小説を読んでいた。その内容に心を踊らせる鳥飼だったが、津田の話を聞けば聞くほど小説の中だけの話とは思えない。この小説が本当にフィクションなのか検証を始めた鳥飼は、やがて驚きの真実にたどり着く。

:::::::::::

原作未読。
未読の人なら、映画見終わった後で原作読みたくなる。早速Amazonでチェックしたら大絶賛と大酷評に振り切れてた。なんかこう…原作からして好き嫌い/納得いくいかないサスペンスなんだろうな。(映画の出来に対して原作が長大っぽいので、原作読破は一旦保留)

虚々実々、時系列も入り乱れるし、第四の壁を越えて主人公・津田が読者(観客)に語りかけてくる作りなので、最初は物語についていくのが精一杯。全てが津田の都合いい妄想のようでもあるし、柔軟な推理に基づいた「ありえる現実」なのかもしれない。見た人それぞれに結末があって然るべきタイプの映画だと思う。出来れば見終わった足で居酒屋でも入って、一献傾けながら各々の答え合わせするのが楽しそうだけど、コロナ禍で無理なのか惜しい。

ミステリーと呼ぶには自由奔放すぎる語り口。
構造的には「信用ならない語り手」モノだろうけど、語り手自身が「この話には嘘がある。あくまでフィクションである」って自認して語るスタイルがややこしい。巻き込まれ型サスペンスのようで、安楽椅子探偵の部分もある。視点と時間を自由に動かすことで、どうとでも取れる物語になってる。

倒置法的に物語が浮かび上がる部分と、順序立てて明らかにされる部分が半々だし、津田の想像も混ざってきてトリッキーすぎる。津田の屁理屈バカ・女たらしで寄生がち・口先上手・金にだらしなく・生活も自堕落……。こんなんでも周囲から人が離れないし、行きつけのコーヒーショップのバイトのコとも仲良くできるので、天性の人懐っこさがあるに違いない。

ほぼ全編富山が舞台なので、北陸の美しい風景も見もの。特に雪をまとった山々や街並み。しんしんと降り積もる雪が美しく幻想的なのに、心に沈殿してく澱のメタファーになってるのも良かった。
あと富山弁がかわいい。関西弁と東北弁の中間くらいの乱暴さと愛嬌が素敵。西野七瀬を筆頭に、ぶっきらぼうに相手を突き飛ばすような言葉と裏腹に近しい距離感を伺わせる方言の妙。(富山弁ネイティブの人からすると違和感がある発音かもしれないけど)
近年富山はフィルムコミッションに熱心のご様子。富山市議会の腐敗を暴いたドキュメンタリー「はりぼて」を入れても、毎年富山が舞台の邦画を1本は見ている気がする。

カイジ以降、すっかりクズ役が板についてしまった藤原竜也。主人公にして語り部の津田。韜晦してるようでいて、何処か本質的にはやっぱりクズ。飄々と事態を受け止めたり、受け流したりする。食えない掴めない男だけど、なんだか憎めない愛嬌ある男を好演。かなり型落ちしたMacBookで執筆してるのも貧乏くさくてよかった。

風間俊介の誠実そうだけど、ミステリアスで陰のあるヒデヨシ。
陰鬱な物語に華を添える沼本を演じた西野七瀬。
正体の見えない登場人物たちの中で、土屋太鳳演じた編集者の鳥飼らが印象的。特に鳥飼は唯一正体が明らかで、観客に代わって物語を追体験する。信用ならない話の真贋を確かめる聞き手の役回り。仕事に打ち込むあまり私生活が蔑ろになってる雰囲気とか、狂気じみた真面目さが透ける佇まい。土屋太鳳本人インスタの毎度真面目すぎる長文コメントと合わせ技で超ハマり役に思えた。


原作では説明があるのかもしれないけど、床屋の前田が面倒見良すぎる。津田とどんな因縁があるのか描かれてないので、本通り裏を恐れつつも思惑通りなるのも不健全と思ってるのかもしれない。デリヘル社長共々、富山の人はとても面倒見がいいってことかもしれない。

タイトルの謎。結局津田は鳩を撃退できてたか?

なにしろ物語の語り部が天才小説家で、かつ信用できない奴。物語の端々にツッコミどころがあっても、津田のミスなのか、虚実を曖昧にした豊かさなのか判断に困る。
例えば房州書房の老人が遺したトランクのダイアルロック。0000から1つずつ試して、津田は夕方までかかって開けれてなかった。で、正答はあの数字なのがおかしい。仮に1つの数字に5秒かかるとして、正しい数字に当たるまで1150秒。大体20分もあれば解けてしまう。怠惰な津田のことだから、途中で昼寝してる可能性もあるし、見落としてしまった可能性もある。

フード描写で言えば、登場人物が大体酒ばっか飲んでて何も食べない。「正体不明者はフードを食べない」の法則通り、腹の底が見えない・誰も何考えてるか分からない。編集者・鳥飼だけは津田に勧められるショットを苦々しく飲み干してて、津田の強引な要求を渋々飲み込む暗喩になってた。深夜にカップ焼きそばを頬張る姿から仕事人間っぷりがるし、裏表の姿を見せることで劇中唯一現実に存在するキャラに見える。(翻って多くが津田の創作であるようにも見える)
ほとんど食べ物が登場しない今作にあって、津田が出てくる「8番ラーメン」と待ち合わせ場所の「あっぷるぐりむ」。どちらも北陸3県を中心にしたチェーン店で、地元の人には馴染み深そう。深夜にうっかりメニューを検索したら自爆飯テロになった。

KIRINJIの主題歌と劇伴も超カッコ良かったけど、最終盤の大事なセリフが被って聞きづらかった。劇場や音響設備によって違うのかもしれないけど、どうにかならなかったのか。

追記)
観終わっても疑問が多すぎて一応2回見た。
津田とヒデヨシが会ったのが時系列で2/29のAM3時として、ヒデヨシが妻から妊娠を告げられたのって前日のことよね? 結局ヒデヨシは店を部下に任せた後、どこで何をしてたのか? てっきり妻を問い詰めてるのかと思いきや、妻は娘を連れて間男と駆け落ち企ててるし、いよいよヒデヨシは何処で何してたのか? 少なくともコーヒーショップで読書してる場合ではなさそう。
津田と別れた後、自分の店に戻って状況を把握し、クライマックスの修羅場に繋がる。あの奇行を思い出すと倉田ならずとも「状況分かってる?」と問いたくなる。ポエムってる場合か。
その辺の辻褄や疑問ひっくるめて、津田の創作とそのアラかもしれないけど。


完全な余談)
映画とは全く関係ないけど、他に書いて残すトコもないので書いておく。
つい先日遭遇した不思議な出来事。
深夜、仕事で疲れた体で駅から家までの帰路。シャッターの閉まった商店街を抜け住宅街に差し掛かる頃、進む道の向こうに鎮座してるものがボンヤリ見えた。街灯と街灯の間の薄暗い道端でこんもりと盛られた何か。家までの一本道。歩を進める毎にちょっとずつ明らかになる。丸めたバスタオルのような大きさで、道路の端でピクリとも動かない、なぜか周囲のアスファルトが濡れていた。
いよいよ自分の目の前まで近づいて正体を見極めようと目を凝らしたら、こんもりした小山が丸々巨大な💩。「どんなデカイ犬がしたんだ!? いや犬には無理だ。え、じゃあ人??人でもこの量はないし、だいたい深夜とはいえ道端って……」ドン引きして頭グルグルしてたら、目の前が巨大💩が汚い・臭いことより、事態の意味分からないのが怖くなって足早にその場を去ってしまった。
次の日の朝、出勤する時には消えてたので誰かが片付けたんだろう。出来事が意味不明すぎて、我ながら夢だった気さえしちゃう。スマホで記録しとけば良かった。自撮りしてインスタに上げるレベルだったな、アレは。


53本目・55本目
somaddesign

somaddesign