Kaji

夜明けの詩のKajiのレビュー・感想・評価

夜明けの詩(2021年製作の映画)
4.0
静けさに余韻がある作品で、それでいて音の演出にきめの細かさを感じました。
落ち葉が擦れる音、タバコの火が進む音、室内で流れる音楽がいつの間にかBGMと同化していったり。電話を通す声。
なんの音もないシーンで聞こえるはずがない音が聞こえてるようにも。

劇中の静かな会話、それはほぼ主人公が聞き役となります。
まるで一人称の短編小説の朗読を聞いているような、辻褄が合わない話なのですがそんな都市寓話のような話とストーリーに横たわる主人公の話とが重なり合います。

老いや死、離れ離れ。失くしたけれど探してない何か。
飛石を踏むように人物たちの体験を通過して、出会い頭で悲しい身の上話ができるほど社交的ではなさそうな主人公の慈愛ある相槌で、話者の重みが軽くなって行く会話が心地よかった。
「話長いなあ」とか「そんな話、今?」みたいなおしゃべりへの忌避感を日常では感じますが、この映画の中ではチャンソク(ヨンウジン)の優しげで耳を傾ける姿勢が重い空気を包んでいるようでした。

パンフレットの監督の言葉で「闇にも温かさがある」とあらわしていらっしゃいました。
日が暮れているのか、夜が明けているのか。
室内の逆光や喫茶店の平べったい灯り、バーのダウンライト。相手と自分の姿がはっきりしない灯りのもとで静かな会話と長い散歩が映るだけの映画に、誰かを救済する力が宿る作品でした。


余談ですが、原題直訳は「誰もいないところ」。
Kaji

Kaji