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⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のカカポのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.0
前評判が大変良いし、水木とゲゲ郎の組み合わせがどう見ても私好みだったのでメチャクチャ期待値高めで行ったんだが思ったより沼が浅かったようでハマらず。PG12だけど全く怖い要素はないし、「イベント発生→〇〇に話を聞きに行こう!(たまにバトル)→解決&新たな謎」って流れの繰り返しなので、全体的にゲームシナリオ感の強い映画だった。本格ミステリーというよりは、"キャラ愛で"のためのファンムービーという側面が強い。

舞台はかの有名な鬼太郎が生まれる前の昭和30年代。製薬会社に勤める戦争帰りの水木は、取引先の名家の当主が死んだという報を受け、その生家の村を尋ねる。とある新薬を製造しているその一家になんとか取り入ろうとする水木だったが、そんな中突如殺人事件が発生。容疑者とした上がったのは、「妻を探している」と語るもう1人のヨソ者、鬼太郎父(ゲゲ郎)だった。

田舎の名家での跡目争いと殺人事件。村の真ん中に浮かぶ聖域と呼ばれる立ち入り禁止の島。何かを隠している様子の村人たち……と定番因習村ミステリーの導入といった布陣なので物語に目新しさがあるわけではないが、その謎に挑む水木/ゲゲ郎の凸凹コンビはそれぞれキャラが立っててとても良かった。物語よりキャラに力を入れて集客するのは、私含め"鬼太郎"というコンテンツに新規参入する層に対するアプローチとしてはかなり有効なだなと思った。

特にやぶれかぶれサラリーマンで元・敗戦兵の水木は"こざかわ"(小賢しくてかわいい)で大変良かったですね。昭和特有の無鉄砲さと謎の律儀さのバランスには求めてた味わいがある。ゲゲ郎の飄々としつつも戦えば最強、実は泣き虫という鬼盛り設定もオタクを殺しにきてましたね。令和における鬼太郎THE MOVIEにおける"正解"です。ありがとうございます。捗ります。

という感じで、物語についてはあくまでキャラクターというジャムを乗せるためのパンという立ち位置に過ぎないのだが、それにしてもパンがちょっと美味しくなかったのは残念。登場人物が多いのも一因なんだが、妖怪周りの特殊事情や因習に関する開示がイマイチうまくいっておらず全体的に飲み込みづさが強い。結局当主に伝わる力みたいなのは何だったの?とかなぜ聖域に渡ると心を失ってしまうの?とか、最後まで謎が残ったままの伏線が放置されてるのも気になる。

それに加えて、物語のためにキャラを無理やり動かすような力技の展開も目立つ。水木とゲゲ郎が手を組むところとかも、よく考えるとイマイチ理屈が謎なのよね。それぞれ目的が「新薬の入手」と「妻の捜索」と異なっていて、この時点ではその二つの目的が重なる確証はまだないはずなので、よく考えれば彼らが手を組むメリットはないのよ。彼らの目的が重なる可能性に気づいて良いのはこの時点では観客だけのはずなので、水木とゲゲ郎が手を組むことになったのは、完全に観客の都合、ひいてはそうしないと物語が始まらないという制作側の都合に他ならない。

戦後の血液銀行に関する一連の史実と、作中クライマックスで発覚するとある出来事を重ねる展開にしたかったのかとは思うが、劇中で搾取される人たちに弱者としての背景がイマイチ見えてこないのも腹落ち感が弱い理由な気がする。ゲゲ郎が強すぎるのであんまり弱者感を感じられない。何があってああなってしまったんだ一体。

てな感じで、各所各所で納得ができないままクライマックスまで勢いで話が進んでしまうので置いてきぼり感は強い。キャラ愛が大事で筋に関しては深く考えたら負けなのかもしれんが、結構期待してたので物語もちゃんと味わいたかったな〜
山奥の隠れ里っぽい背景の作り込みとかはとてもよかった!ビジュアルブックは欲しい。
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