イトウモ

フラワーズ・オブ・シャンハイ 4K デジタルリマスター版のイトウモのレビュー・感想・評価

4.2
周囲はみんなトニーレオンが羽田美智子をすてたことにしているけれど、本当は逆で、羽田美智子がそっぽを向く理由は、客であるはずのトニーレオンが本気になってしまったからという筋書き自体、トニーレオンが「ゲームの規則」を破った罰なのだというふうに見えて、ジャンルノワールのことを考えずには思えないのだけど、これは『ゲームの規則』と『フラワーズオブシャンハイ』がよく似た映画だという単純な話ではなく。

金井美恵子が、ブニュエルについて書いたエッセイで、『皆殺しの天使』でブルジョワが屋敷から出れないのは、西部劇の多くがそうであるように、ただそうした閉鎖的な状況が映画の撮影や作劇に適しているからで、本当はそれこそ西部劇のように「閉鎖的でしかない」設定を探すのだけど、ブニュエルはそれを逆手にとって「理由もなく閉鎖的な空間を作り出す」

「意図的に閉鎖された空間」は「ゲームの規則」が支配するのだが、そういう意味で「フラワーズオブシャンハイ」は侯孝賢の「ゲームの規則」であり、「駅馬車」であり、そのようにしてただ他の映画に似ているのではなくあらゆる映画に根本的に似ている。映画批評の映画。