ネノメタル

西成ゴローの四億円 死闘篇のネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

1. Overview
上西雄大監督は本作『西成ゴローの四億円死闘篇』に関して「(前作)『西成ゴローの四億円』より50倍面白い。」と断定したがその言葉に全くの嘘偽りの無い2時間だったと思う。

まぁ言うなれば
【前作『西成ゴローの四億円 』で巻かれた種子としての伏線が繋がって芽が出て花咲いて…ってレベルじゃなくて、もうその花に足が生え孔雀ばりの羽根つけて巨大化して鳳凰のようになって、火がついて火の鳥のように飛翔して、しかも大爆発して観ている我々全員宇宙にぶっ飛ばされる】
ぐらいの物凄い展開に圧倒されてしまった。これだと50倍どころか5億倍ぐらいなりそうだけど(笑)

いや、でも冗談抜きで確かに前作のストーリーである
【西成ゴロー(士師唔郎)は殺人罪で服役後、大阪の西成で日銭を稼ぐ日々。彼は記憶喪失になってて、時々過去の記憶が断片的にフラッシュバックする。やがて徐々に記憶を取り戻していくゴロー。大病を患った自分の娘の為に「四億円」を稼ぐことを決意する。】

と言う基本的なストーリーのフォーマットは維持しつつも、更に秘密結社ある怪しい組織、ゴローにとって後半最大最強の敵となる百鬼万里夫(木下ほうか)、ゴルゴダ(加藤雅也)なるものも登場したり、日向誠人(津田寛治)のいる政府諜報機関の防衛大臣(松原智恵子)も新たにお目見えしたり、とゴローにおける四億円争奪戦はますます混沌と混乱を成していくのである。そして驚くべきことに更にキャラクアーのバリエーションが増えたり、人によっては前作以上にエクストリーム化していってる傾向があるにも関わらず、ストーリーとしては全く散漫にならずに最後の最後には、あの『ひとくず』などにも顕著だった「家族の愛や絆」であるとか人の温かさにも触れる感動作としてまとまってくのはもう「さすが上西雄大!」と絶賛せざるを得ない。ちなみに公開直後ぐらいのMBSのラジオ番組でメインパーソナリティの浜村淳氏は「(上西雄大さんは)主演・監督・脚本全てやってる正に”チャップリン”ですね。」と言ったがほんとその言葉には偽りがないと思う。
前編・後編「無声映画時代のコメディアン」という台詞がいくつか出てきたが正に無意識にも示唆しているようだった。
あと、細かい人物相関図中、人間関係が更に複雑に絡み合っていったり、どう錯綜するのかはパンフレットや公式サイトに掲載されているのでその辺は割愛するとして『西成ゴローの四億円死闘篇』を観てまず驚いたのがまずスクリーンの鮮明さである。
てか前作にて顕著だった「vシネ独特のあのドス黒い雰囲気をスクリーンに閉じ込めましたよ」的なもう「ザ・インディーズアクション銀幕映画!」な感じは今回皆無で、もう言うなればライブハウス中心で活動してきたインディーズ・バンドが晴れてメジャーデビューしてその後ヒットして、ブレイクしてホール級のコンサートをやるようになったそんな晴れ姿でも見るような、まるで生の演劇ライブでも観ているような臨場感あふれる印象だった。
具体的にあげれば幾度も出てくる銃弾が飛び散る血飛沫の色の立体的な鮮やかさであるとか、あと冒頭付近だったろうか、ストリップ劇場でよくあるポールダンサーたちが妖艶に腰をくねらして踊る美しさだとか、アクション・シーンにおけるそれこそライブ感溢れるど迫力さだとか、或いははたまたコントを思わせる爆笑必須の駆け引きのシーンまで、もう全てが生のライブってか演劇のダイナミズムを持って迫ってくるのだ。
 あ、でもここで正直な意見言っておくと、ゴルゴダの頻繁に繰り返される「あんたははげネタ」とか百鬼万里夫が何の脈略もなく数名のダンサーを交えての登場したシーンは、個人的にどうにもクドく感じて「蛇足感」は否めかったけど。
でもこれは映画に笑いの成分やシリアス成分の中でどの配分で何を何を求めるかという意味での個人差があるかもしれないので色んな意見があると思う。
あとちょっと監督は「映画の面白さ」に関して50倍と言ったが、スクリーン自体の大きさも50倍ぐらいデカくなってないすか?ってぐらいのスケールマシマシ感に感じた。とはいえ、先週前作を観たと同じ七藝術劇場の同じ部屋の同じスクリーンでしかも同じ席で観てるからそんな筈は無いのだけれど、でもそんな感慨を抱かざるを得なかった。
 ちなみに先ほど本作のライブ感について触れたが、その象徴として、本作にはライブシーンの場面があるんだけど、昭和的なキャバレーの雰囲気を遵守する事で、ノスタルジーのみならず逆にある種の「新しさ」を生み出しているあの大阪老舗のライブハウス「味園ユニバース」が使われてたのめちゃくちゃ超納得したな。ホントあそこは一度キノコホテルのライブで行ったことがあるが、本作を象徴しているロケ地だと思う。
で、今回私の心にツボったのはそんなスケール感とかエンタメ要素が増して豪華になったね、って話じゃなく前回から出演しているとあるヴィラン(達)の心象風景の変化についてフォーカスしたいのだ。

2. Focus
そのヴィランとは誰か?
ズバリ、松神松子(徳竹未夏)&梅子(古川藍)らの「闇金姉妹」である。
この姉妹、前作ではなんとなく韓国眞劉会ウーソンクーとの繋がりが示唆されていたりとかしたが、謎多きタチ悪き姉妹、というか叫び倒すわジャージャー麺食いながら口まわりベッタリつけながら喋るわ、目ん玉くり抜いて売り飛ばす闇医者と繋がっていたりとか、金がないであろうゴローの同僚である西成労働者にも千円単位でも金をむしり取ろうとするわで、あと妹・梅子のセリフの8〜9割が姉に「じゃっかぁしいな!!!お前は!!!!!」と言われるぐらい大声で叫び倒すキャラだったりで、ひたすらうるさ怖いお姉様方、と言う印象だったのだ。
 ところが、である。更に色々と謎が浮き彫りになっていく中で、本作「死闘篇」ではなぜ「ヤカラ化」しまったのか、そう、あたかも『ひとくず』でカネマサを思わせるような数奇な幼少期のエピソードが明るみにつれて徐々に、この闇金姉妹にも温かな血の通った「人間」である事も分かってくる。更に言うと、特に姉の松子嬢が人間どころか成人男性(あ、ゴローのことね)に恋心を抱く「一人の可愛い女性」である事までわかってくるのだからもうそりゃ衝撃である。もうここから自分の注目度の50%ぐらいはほぼこの姉妹の動向に奪われていったものだ。もうその後松子がゴローを見ていく表情が「恋する女の子」そのもので、まるでこれまでの彼女を覆っていた氷塊が溶けるかのようにどんどん穏やかになって行くのだ、ちなみに、それとは対照的にそのこれまで「最強」と信じてきた男まさりの姉の心象風景が変化していくのに徐々に気づいていく妹梅子の表情がまるで凍りついて氷塊と化していくように強張っていくこのギャップがめちゃくちゃ面白かった。
もうここから私は「闇金姉妹」推しと化したのだ。
『西成ゴローの四億円』から死闘篇までバッチリ観た今にして力強く思ったんだけど、去年インディーズ映画界で話題になった某女子高生の殺し屋わるきゅーれ映画じゃないけどこの闇金姉妹が大活躍するスピンオフ作品があったら全力で観たいと思ったのは私だけではないだろう。

キャッチコピーは「取り立てて世界を救え」とかどうだろう?(笑)

調子乗って更にエスカレートしていうと、完全に闇金姉妹推しになってしまった今、以下のグッズ化を激しく希望したい。

[闇金姉妹グッズ化して欲しいシリーズ]
❶闇金姉妹アクリルキーホルダー
❷闇金姉妹アクリルスタンド
❸闇金姉妹ブロマイド・カラー&白黒(チェキじゃなく敢えての昭和感)
❹腕に書いてる「銭の華は紅〜」
ロゴステッカーorラババン
❺腕に書いてる「銭の華は紅〜」ロンT
どうぞ、グッズ製作の方々、検討よろしくお願いします。

そうそう、意図せず闇金姉妹のことばかり書きすぎてしまった(わざとだろw)最後にあの感動の結末にも触れておかねばなるまい。

本作では当然ゴローは約束の四億円をものにして、手術が必要な例の娘の元に届けて無事ハッピーエンド!となる訳だがやはりこの感動をより享受するためには「前作→死闘篇」と一気に観るよりも、むしろ前作を観てある程度日数が経ってから死闘篇を観ることをお薦めする。
と言うかこの感動の結末に至るまでの「プロセスの長さ」を感じる事が必須だと思うから。
てかそれぐらいのロングラン上映の余裕があるぐらいヒットは必要なんですけどそれぐらいの価値は十分にあると思います。
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