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Ribbonのmanamiのレビュー・感想・評価

Ribbon(2021年製作の映画)
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監督・脚本・主演をのんが務め、コロナ禍真っ只中を生きる美大生の姿を「あーちすてぃっく」に描く。多摩美こと多摩美術大学も協力。
大切な作品を学校から持ち帰ろうにも、持ち上げられず引きずりながら歩くしかない。身も心も疲れはて部屋の床に転がったいつかの上に、色とりどりのリボンが降り積もる。
この「きれいなものがたくさんのしかかってきて、おもたい」は、自粛期間中の息苦しさにも重なる。
ソーシャルディスタンスもマスクも消毒も、自分や誰かの生命を守ってくれるもの。何よりも尊い生命を。でも守るため守られるためだったはずのあれこれがいつしか、心をも覆い隠してしまう。「何度も話したのに話した気がしない」と公園で彼も言ってたように。
リボンはその後も幾度となく登場する。いつかの感情の良いものも悪いものも、そのどちらでもないものも、どちらでもあるものも、色とりどりのリボンで表現される。生きているよう意思を持っているように動き回るそれらは、樋口真嗣・小野克朗が協力してすべて合成で撮影し、CGは使わなかったそう。
ついでに言うと岩井俊二が予告編を制作し、「卒展中止を電話で誰かに伝えている男」として出演もしている。
今作の舞台は2020年、ワクチンもまだなく、人によってはかなり神経質になってもいた、そんな時期。だからいつかは、実家の家族としかまともに会えない。
お母さん、やっちゃったことは仕方ないとしても、娘が明らかにショックを受けてるのに謝らないのは良くないね。しっかり者でちゃきちゃきした妹のまい、小野花梨がさすがの上手さだし可愛い。母からのゼリーを持って来ちゃう父は、姉からも妹からも「分かってない」認定されてる。この、家族それぞれとの距離感の違いがものすごくリアルだなぁ。
そして同じ美大に通う友人・平井と口論する駐輪場には、自転車がほぼ停まっていない。時間帯のせいもあるだろうが、人通りがめっきり少なくなり、通勤電車も空いていたあの頃を思い出す。
「持って帰れるだけましだ」これと同じような言い回しも、あの頃多くの人が口にしたり、心で思ったりしていただろう。「あの人に比べれば、自分はまだましだ」「生きているだけましだ」
「暇ってむなしいねぇ」「今はがまんだね」さらっと現れる一言に、あの頃のやりきれなさが、まざまざと甦ってくる。明日も生きているために、今日を死んだように生きていろと言われていた、あの日々。あのとき芸術もエンタメも守ってくれた人がいたことにも、あらためて思いを馳せる。

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