ねぎおSTOPWAR

火女のねぎおSTOPWARのレビュー・感想・評価

火女(1971年製作の映画)
4.0
「下女(1960)」が「パラサイト」のインスピレーション元となったことで一躍知名度が上がったキム・ギヨン監督。
その「下女」を下地に1971年に公開されたのがこれ、「火女」!
さらに第93回アカデミー賞において「ミナリ」で助演女優賞を受賞したユン・ヨジョンさんのデビュー作でもあったんですよね。受賞スピーチでも大きな感謝と共にそこ言及されていました。

ちなみに1982年には「火女82」としてセルフリメイクされています。
あとね、「水女」もあるんでね。笑

****

KMDbにて鑑賞。

「下女」と異なるのは、まずカラー映像!
あと注目は1970年のロケ撮影だからこその、当時経済成長前のソウルの街が映し出されている点ですね。
日本でも、同時期の映像(記憶は子供の時に観たテレビになっちゃうから)ウルトラセブンとかその流れを思い浮かべると、まだ舗装されていない砂利道やぬかるんだ道、広っぱや草むらが映っています。
だからなのか、当時韓国には行っていないけれど、すっごく懐かしい風景ですね。

そして当たり前なんだけど、ミョンジャ役のユン・ヨジョンさんが若い!!
こりゃ言われないとわかんないって!!
既にデビューしてテレビ番組には出演していたそうで、映画はこれが初出演。


当時ハウススタジオってものがあったとは考えづらく、まだまだ映画スタジオが当たり前の時代ですからね、たぶんセットを建てたんじゃないかと・・。わかりませんが。
「下女」の家の構造も特殊で面白いなあと思いましたが、今回のそれはまるで別荘のようなそれ。二階に上がる階段はそのままリビングにあり、食卓の背後に映り込むわけです。そしてそこをわずかに隔てる壁は斜めに板を重ねたもので、とても変わったデザイン。夫婦の居間もあえて壁もふすまもない構造。
・・そこで大きな矛盾を感じてしまうんです。
冒頭ミョンジャ(ユン・ヨジョン )が家政婦で雇われるタイミングで奥様は「うちはそんなにお金がないし、鶏舎で・・」って言う割に家を見るととてもいい暮らしをしているように見えるわけです。笑

で、キム・ギヨン監督はステンドグラスやすりガラス、鏡などを好みますね。
つまり室内の画に常にとても奥行きがあり、階段で高低差も生まれ、ガラスで色合いを加えるのと微妙に隠す効果も。
(・・実は「火女82」のリメイクも観ているんですが、圧倒的にこちらの方が芸術的で好みです。82のリメイクはどこか現代テレビドラマ的。)
撮影もところどころ、産婦人科の階段のシーン:あたりは真っ黒で遠い階下にそこだけライティングされたミョンジャというね、この画はフランスですよね。
また構図も、人物の顔の配置とかね、青と赤を基調とした照明、ところどころのダッチアングルも素敵です。これらも参考にしているのはヨーロッパ映画でしょうね。日本じゃないしハリウッドでもないように思います。みんなトリュフォーとかこぞって観ていた時代ですしね。
(追記2023年:これ、撮影のチョン・イルソンさんの技ですね。ダッチアングルを好むし、かなり稀有な才能を持つカメラマンかと思います)


ストーリーの骨格は「下女」「火女」「火女82」と全て共通なのですが、この「火女」のメイドであるミョンジョ(ユン・ヨジョン)の設定の特異で面白いところは・・
・若い頃に強姦されそうになりトラウマになっている
・夫婦のSEXを目撃した際もフラッシュバックして発作が出ている
・間違えて主人に犯されるシーンも発作が出て動けなくなっていた
と、彼女が道を踏み外していく過程の説得力。

ユン・ヨジョンさんがとてもいいのは・・
・田舎から出てきたうぶな娘に見える
・おかしな考えに至る過程の演技(演出)がきちんと出来ている

こんな話ばかり何度も作ってるなんてちょっとね・・疑っちゃいますけど笑、でも衝撃的でかつ素晴らしい作品かと思います。


<276>