モカ

コーダ あいのうたのモカのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
3.0
SODA(ソーダ、聴覚障害者を兄弟姉妹にもつ子)のほうを先に認識してた元ヤングケアラーの自分としては、
こういう作品においてはどうしても自身の経験の一部と重ねてしまうので、
感情的に並べてるだけだったらスミマセン。

前評判がとても良かったので期待してたけど、拍子抜けというほかない。
言葉は良くないけど、障害者の感動ポルノがヤングケアラー中心の感動ポルノになっただけだ。
結局はおきまりの『家族愛』をもってして、全てを解決してしまったことに、怒りすらおぼえた。
本当はCODAもヤングケアラーも自助努力だけじゃなくて、コミュニティや行政のヘルプが必須なのに。


一番残念だったところは、ヤングケアラーとしてのルビーの苦悩がとても軽く扱われていたこと。
せっかく中心人物にそえるなら、もっと丁寧に描いてほしかった。


あの年頃のケアラーは、とにかく何重もの苦悩につぶされて、毎日を生きるので精一杯なはず。
交友関係や勉強・将来の夢の諦め、
24時間つねに介護をしなければいけない義務感、
周りからからの「面倒見の良い子」プレッシャーへストレス、
恥ずかしさから誰かにヘルプを求めることも相談もできない孤独感。

そして、こんな家に生まれたくなかったというやりきれない怒りと、
更にそれを考えてしまう冷酷な自分への自己嫌悪。


歌を歌いたい→両親がろうで理解してくれない→なんで!?
なんかじゃとても済まされない世界に住んでいて、家族の愛や親の理解だけでは到底乗り切れない。

そして現実は、障害者のいる愛にあふれた家庭なんてものは理想像でしかなく、
強く明るく元気に生きるヤングケアラーなんてのも、ほぼ幻想だ。

まあ当然視聴者はそんな出口のないリアルは見たくないので、こういう作品になってしまうこと、
エンタメとしてヤングケアラーがあたかも消費され、そしてそれが評判を呼ぶことは、
まだ今の時代じゃ仕方ないよね…

あと根本的な問題として、
歌にそこまで情熱を持っていると感じ取れなかった演出はどうなのかと。


貶してばかりでも面白くないので、
この作品で自分なりにリアルに感じた点は、ルビーが友達や先生の誰にも相談していなかったところ。
上記にある孤独感と、どうせ話しても理解されないという絶望とで、
自分の殻に閉じ籠もって抱え込むヤングケアラーの多いこと…

またこの映画を通して、手話の表現の多彩さやユーモア(汚い言葉も含め)、
そして何よりCODAという存在が世の中に知られたのは
一番の功績かなと思っている。
そういう意味で★は高めにしておる。

これがアメリカではなくヤングケアラーへの理解がより深いイギリスなら、
かなり違った作品を作っていたのかもしれないな。
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