げげげんた

コーダ あいのうたのげげげんたのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

漁師一家で聾唖者の家族の中で、唯一耳が聞こえる少女が音楽の世界を志す話。

聾唖の家族の描写が、周りが笑っているのに話に入れない疎外感であったり、耳が聞こえない故にトラブルに巻き込まれたり、どんな音楽かわからず主人公の夢が理解できない、マイノリティ性を内面化していそうな若干の卑屈さなど、ちょっとしたものから大きなものまで聾唖というマイノリティゆえに抱える状況を描き出すのがとても巧みだった。

父親母親は周囲の漁師仲間から理解されないと思い込んでいるが、兄は飲みに行く程度の仲ではあるし(会話はやはり理解できないが)、卸売しない!とブチ上げた時は拍手喝采で、「聾唖だから」下に見られたりする描写はない。一方でルビーの同級生は聾唖を無邪気にネタにしている、あたりの匙加減がリアル。

(あと追記で)あまり社交的でなく娘に依存する両親、特に母親に対し、兄のレオは聾唖のためにルビーの助けに依存することや、バカにされるのを非常に嫌がるというのが世代観や自らの障害への見方の差をうまく捉えている感じがした。


一方でそんな家族を支え続けた主人公にも、周囲から聾唖を馬鹿にされる辛さだったり、本当は歌が好きで家業(通訳)以外にやりたいことがあったり、でも家族なしで何かをしたことがない複雑さがあって…。

一方で10代ならでは?の「何で自分だけ」感に対して、メキシコ系の先生から「発音をバカにされたことがあるのはあなただけだと思う!?」と言われたり、「家族が仲良さそうで羨ましい」と親が不和な同級生マイルズに言われるなど、視野の狭さを諌める場面もある。

(こういう状況で「あなただけじゃない」という励ましや指摘が本当に良いのか?とは思うが)

物語の筋書き自体はシンプルというかオーソドックスなもので、えーっ!?という驚きは少なかった。

が、逆にそれが良かった。たとえば誰かが死ぬみたいなドラマチックな展開があったら「物語のために死なせた」感がこの映画にはマッチしなかったと思うから。

発表会ではまったくわからなかったものの、周りの反応からどうやらルビーの歌は良いらしいと察する→ラップの振動、重低音を楽しむ父親がルビーの首に手を当てながら「聴く」→試験で手話をしながら歌い、こっそり聴いていた家族が笑顔になるシーンでグッときた。

※現実にはコンサートに手話通訳がいたり、音の大きさや高さによっては聴こえる人もいるようだから、このあたりは少しオーバーな部分もあり?

あとは雑記を…

・歌声がとても良くて、カラオケで歌いたくなりました。

・考えてみれば当たり前だけど、聾唖者も酒も飲むしセックスもするし、(聾唖と関係ないところで)ダメな部分もあって、障害=清貧的な自分の偏見と向き合う機会だった。

・聾唖役の3人は実際に聾唖者の俳優だそうで、こうした俳優にスポットライトを当てた功績も大きいと思う。近年ではセクシャルマイノリティや障害者の役を当事者ではない俳優が演じることの是非についての議論なども良く見られるが、ただでさえ機会が限られやすい当事者の俳優の活躍の場が広がるのは良いと思う。物語の中で「特に意味なく」ただ「現実を反映して」「一つの設定として」視覚障害者や聾唖者、トランスジェンダー、有色人種などが増えるきっかけになることを願う。

・最近見たドライブマイカーでも手話がとても効果的に使われていて、手話への注目度があがりそう。勉強してみたくなった。
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