ここらへん

コーダ あいのうたのここらへんのネタバレレビュー・内容・結末

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ルビー役のエミリア・ジョーンズはどことなくズーイー・デシャネルを彷彿させる。世界一下手くそなバンドとして名高いシャッグス(最高!)のレコードをかけて歌って踊るシーンのキュートだけどどこか抜けている感じや、合唱コンクールで赤いドレスと巻き髪の姿なんて、ギターを抱えたすまし顔のマイルズと相まってShe&Himのズーイー・デシャネルとM・ウォードにしか見えなかった。

このシーンだけで本作が特別なものになった。もちろん内容もよかったのだが。

聴覚障害を持つ両親と兄を持つ17歳のルビーは、家族の通訳や仕事に忙殺されて、勉学に励んだり将来の夢に挑戦したりすることができずにいる、いわゆるヤングケアラーだ。

自分の声や人前で歌うことにコンプレックスを持っていたルビーに、合唱部の先生は「大事なのは『伝える』ことなんだ」と指導する。

『伝える』ためには『伝えたい』という想いが必要だ。
平田オリザ著「わかりあえないことから」に「『伝えたい』という気持ちはどこからくるんだろう。それは『伝わらない』という経験からしか来ないのではないか」と書かれている。

手話で家族と意思の疎通はできるものの、『伝わらない』という経験が疎外感や自己犠牲に直結しているため、ルビーは『伝えたい』という意思が薄弱になっているのかもしれない。

歌うことが好きだ、音楽学校に進学したいというルビーの気持ちは、歌声を聴くことすらできない両親には伝わらない。
音楽学校のオーディションでルビーが家族に向けて表現する最大限の『伝えたい気持ち』に涙があふれた。