このレビューはネタバレを含みます
マジョリティとマイノリティとの対比、そしてマジョリティの特権と暴力性、
そういったものをテーマとして映し出したかったのだと受け取った。
聴者であるルビーは世間一般的には「ふつう」の女子高生。変わり者と言われつつもマジョリティとして学校生活を過ごしている。
ただし、ろう者の家族の中では唯一の聴者で、ある意味マイノリティ。
趣味の音楽よりも、「聞こえない家族みんな」が楽しめる娯楽を優先されてしまうし、受験勉強よりも家業を優先せざるを得ず、自己犠牲を強いられる。
一方で、家族にとってルビーは、世間と自分達をつないでいる唯一のアクセス手段。
一歩家を出れば、簡単に職を失いかねないマイノリティである。
聴者のルビーが言う「ママも外の世界に目を向けなよ」は、正しいけれど残酷だ。
ろう者の母親は外見で聴者に勝つことはできても、周囲の会話には入れない。
何を話しているのか訊くこともできず、ただ、聴者の娘の後を追うしかない。
母親は「あなたは勇気があるから」とルビーを誉めたが、ルビーが母親と比べて勇敢なのは、「聴こえるから」だ。聴者だから、ろう者の母親よりも勇気を出しやすいだけ。
意思疎通の努力もせず「聴こえないから危険だ」と一方的に判断した海上監視員とある種同じ特権を持っている。
それでも家族は、聴こえるマジョリティの反応を見て娘の才能を信じた。
生まれながら特権を持つ者、持たざる者の共生を見た映画だった。
