おどろきの白鳥

コットンテールのおどろきの白鳥のレビュー・感想・評価

コットンテール(2022年製作の映画)
3.8
観る前はタイトルが何を指すかわからなかったのですが、ピーターラビットの妹、カトンテールのことでありました。

『ピーターラビット』のコットンテール(カトンテール)が大好きだった妻が亡くなり、ピーターたちの故郷である「イギリスのウィンダミア湖に遺灰を散骨して欲しい」という遺言に従って、イギリスに向かう元英語教師の男・兼三郎の姿を追う作品でして。

妻との出会い、馴れ初め、幸せな家庭、子どもの独立と生まれた溝、妻の若年認知症に全身の痛みと、死……
それを葬儀~遺言受け取り~イギリスの旅、それぞれの途中で思い出し、心が過去に飛ぶ。

もっと妻に寄り添えたのではないか?
何故妻を助けてやれなかったのか?
何故自分は妻を楽にして(殺して)やれなかったのか?

常に自分を責め続け、鬱になり。
息子の自分に対する気遣いや優しささえ疎ましく感じ……
いや、むしろ自分より妻をうまく介護できた息子に男として嫉妬し、マウントと理不尽な八つ当たりをした挙句に、無能な自分の愚かさに自爆する老人をリリー・フランキーが見事に演じていました。

心境を読み取ることが重要で、それをセリフに一切せず、無言の顔のアップから読み取れ…という優しくない作りだったので、意味不明に感じる人も多いかもしれません。
ですが、私はこういう手法の方がしっくりします。
人間って、案外感情を言語化できないんですよ。
過去の取り返しがつかない出来事に対し、やり遂げた満足感も、後悔も、どちらも同時に抱くし、またほかの感情も存在したりする。
下手すると、感情が死に絶えて、何も感じられないことすらある。
それが人間だと思うんですよね。