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シン・仮面ライダーのIkTongRyoのレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
3.8
どこか懐かしい1970年代のTV特撮ドラマを模した、痛快SF怪奇アクションドラマの再来。オタクがオタクのために創った、万人受けしない、とてもオタクな映画でよい。

特オタの長でもある庵野秀明が提供する、ゴジラ、エヴァ、ウルトラマンに続くシンシリーズの最新作。

石ノ森版仮面ライダーに実写版『キャシャーン』と『エヴァンゲリオン』を加え、隠し味に『シン・ゴジラ』と『シン・ウルトラマン』を足したような作品。さらに庵野監督が過去に監督した実写版『キューティーハニー』や『式日』がちらつく。

『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』のような作品を期待して観に行くと期待を裏切られるだろう。だって初代仮面ライダーも、放送当時は異質だったのだから。

70年代初頭といえば『帰ってきたウルトラマン』『宇宙猿人ゴリ』などのヒットにより、第二次怪獣ブームが始まった頃。

そんな中、仮面ライダーは等身大のヒーローがグロテスクで気味が悪い怪人と戦う怪奇ドラマとしてスタート。今でいう王道ではなく邪道だ。ショッカー戦闘員だって今でこそシンボリックなフルフェイスの黒タイツを連想するが、当初はベレー帽をかぶった改造人間たち。主役の仮面ライダーなんてバイクの上で変身する。

超人気番組に変貌したのは仮面ライダー2号の登場によって路線変更を余儀なくされ、変身ポーズを取り入れたから。日本列島に変身ブームを巻き起こした。

『シン・仮面ライダー』はそんな初代仮面ライダーを下地に、多くのオマージュポイントをちりばめて現代風に再解釈した映画。

冒頭から初代仮面ライダーの一話を完璧にオマージュし、流血などを取り入れることで「あ、これは今までのシンシリーズとは違うぞ」と観客に思わせる。

初代ライダーおよび石ノ森章太郎の萬画版ひいては仮面ライダー以外の石森ヒーローオマージュもふんだんに盛り込まれており、庵野秀明のライダー愛が炸裂しまくった内容となっているが、ストーリーはいたってシンプル。「人間の自由を守るため仮面ライダーが悪の秘密結社SHOCKERと戦い続ける」というのが大筋である。

戦闘シーンはとてもカッコいいし、効果音や音楽も1970年代を意識している。とりわけ、昔の特撮によくあるジャンプの映像を使ってシーンやロケーション転換を図る方法は素晴らしい。『ウルトラマンA』を思い出す。映像は新しいが、まるで昔にタイムスリップしたかのような気分になる。

そしてロケーションの選定もこれまた豪華。初代仮面ライダーでも使われたダムを含め、本当にたくさんの舞台が登場するのだが、それぞれにしっかりとオタクをうならせるポイントが含められている。背景を見るだけでも楽しい。

わざと70年代のTV特撮のような演出を入れているので、人を選ぶ作品だが自分はめっちゃ好き。とにかく特撮やライダーへの愛が溢れすぎていてバグっていて、パンピーは置いてけぼりや。シン・ゴジラやシン・ウルトラマンは東宝、円谷プロ、樋口真嗣というステークホルダーたちが庵野秀明の暴走を止めていたということがよくわかる。

なので、王道ではなくあくまでも邪道な映画としては大傑作。

池松壮亮や柄本佑のような俳優たちの演技も素晴らしいし、『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』との繋がりをほのめかす配役も大好き。

浜辺美波さんの可愛さが強烈なので、IMAXで観る価値はそれだけでも存分にある。

非常に難解なシナリオにより、映画を一回観ただけでは内容を理解することが困難なため、複数回の視聴を推奨。また、事前に石ノ森章太郎の萬画版『仮面ライダー』を読んだり、初代仮面ライダーの数話をインプットしたほうが何十倍にも楽しめると思う。後者は“庵野秀明セレクション「仮面ライダー」傑作選”が用意されているのでおススメ。

あとはスピンオフ作品『真の安らぎはこの世になく-シン・仮面ライダーSHOCKERSIDE-』を読むことで劇中の登場人物の背景や専門用語の理解が深まると思う。

こういった事前準備が必要なほど、敷居が高い映画なのは間違いない。
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