YAJ

シン・仮面ライダーのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

【シン・庵野秀明】

 「シン」祭のトリを飾る本作。庵野秀明の暴走っぷりが見れて実に痛快。これを面白いと受け入れるか、なんだこりゃ?!と拒絶するかは、世代の差か、映画作品に対する期待、あるいはオリジナルへの愛着の差によるものか。その見解の相違はいくら言葉を尽くしても埋まることはないのだろうなあ。

 いずれにせよ、ゴジラ、ウルトラマン(あ、エヴァンゲリオンもかな?)で、しっかり稼いで、評価を得た上でのこと。もう、この仮面ライダーでは、好きにさせてよという監督の思いが横溢していた。

 主人公のキャラを対人関係構築が苦手なコミュ障とし、ショッカーの目的は世界征服ではなく、“人類補完計画”だ(エヴァはよう知らんのだけど。本作では、魂を別世界に送り幸福を実現し絶望から人々を救済するという怪しげな新興宗教っぽい存在としている)。もう、どっぷり庵野ワールドで、映画館で声を出さずに腹を抱えて大笑いだ。

 あとは、原作にオマージュを捧げたという美辞麗句の元、ちゃっかりTVシリーズ・原作漫画からのいいとこどり(パクリ)を画面上に散りばめ、意味不明の専門用語の洪水と、サンスクリット語の引用等(生命力を“プラーナ”と称す)オタク気質溢れる雑学での理論武装 etc. etc.・・・, もうやりたい放題で、逆に拍手喝采だった。

 それをやれるだけの地位も資金も得た上でのひとつの到達点ではあろうと好意的に受け止めて、私は個人的には大いに堪能させてもらいました。
 なにしろ、緑川ルリ子を演じた浜辺美波は、まんま実写版綾波レイ!(エヴァは、よう知らんのだけど)。
 煮え切らない主人公本郷猛に対し、物語をグイグイひっぱるキャラは実に魅力的。途中まで、この作品は「シン・仮面ライダー」じゃなくて「シン・緑川ルリ子」じゃないのか?!と思いながら鑑賞してました。彼女を見るだけでも鑑賞価値ありかもしれません。

 いずれにせよ、庵野秀明のやりたいことテンコモリ、これぞ「シン・庵野秀明」という作品かと。
 あとは、やっぱり出て来たな!とか、あんたその役でよく出演OKしたね?!というサプライズな登場に驚きながら(仲村トオル、安田顕なんて無駄遣いもいいところだ)、あるいは数えきれないくらいに仕込まれた原作シリーズや石ノ森作品ネタの発掘を楽しみ(←オールドファンには実はこれが一番楽しい)、シン世界の大団円、極上のシャンパンファイトを味わえば、よし!



(ネタバレ含む)



 正直、「ゴジラ」「ウルトラマン」の時のような感動、新たな視点や展開といった妙味は乏しく、それが逆に、ダークでアングラな仮面ライダーのクローズドな世界観には合っていたのかなと、そのあたりも好意的に解釈してます。

 そもそも、仮面ライダーは、- TVシリーズは知らないけど(特に平成以降)、少なくとも石ノ森章太郎の原案は - 自分の意図せぬところで改造人間にされた恨みつらみと、なぜ自分が戦わなくてはならないのかという葛藤、超人的力を得てしまったゆえの孤独との、実に内面的な心理闘争のお話(だと思っている)。なので、クライマックスで、「世界なんてどうでもいい」とか、「自分を変えたい」と本郷猛に言わせたのは、正しい。
 が、それが昨今の風潮?というか2000年以降、アニメやゲーム世界に蔓延るセカイ系の思想 - 君とボクの小さな関係性が全てで、それが世界の、あるいは抽象的な大きな概念と、本人たちの知らないところで繋がっているというアレ - なのか、オリジナルへの理解なのかは分からないが、仮面ライダーは、実はエヴァ的だったんだなぁと(エヴァはよう知らんのですが)。

 ただ、ねぇ・・・。本郷猛は、そうじゃないのよ、という思いもあり。「シン・ウルトラマン」でハヤタ隊員の役どころを黒部進氏とは似ても似つかぬ斎藤工が演じようとどうでも良かったのだが、藤岡弘じゃない本郷猛は、どうにも本郷猛じゃなかったなあ(故に前半は、これは「シン・緑川ルリ子」だと思って観ていたのかもしれない)。
 池松壮亮くんも、がんばっていたとは思うけど、藤岡弘というよりチビ・ノリダー的な顔立ちで、自分の中の本郷猛像をUPDATEすることはなかったよ。

 原作者石ノ森章太郎の言葉に、こういうのがある。
「時代が望む時、仮面ライダーは必ず蘇る」
 今回はライダー誕生から50周年企画として立ち上がったシン・シリーズの一環としての復活だった。時代が求めたということではないと思う。

 この先、時代が要求する、望む時とは、いついかなる時だろうか。イリーガルな地下組織が忍び寄る時?!昆虫食が急拡大して生態系が脅かされたら? バッタの化身として昆虫食に反旗を翻しそうだ(笑)

 いずれにせよ不穏な予想がまずは思い浮かぶが、明るい希望の象徴として仮面ライダーが蘇ることはないだろうか?
 風を受けて、それを爆発的なエネルギーに転換できる、50年も前に誕生したヒーローは、SDG‘sなんか微塵も兆候のなかった頃から、実にエコな存在だったのだ。再生可能エネルギー活用の象徴として、原子力や化石燃料、CO2排出に立ち向かう立場としてのライダー復活はどうだろう。
 それこそ、本郷猛に「世界なんてどうでもいい」(ここは藤岡弘の声で)と言われそうだけどね(笑)

 エンディングの旧テーマ曲、挿入歌のセレクトもナイス。「ロンリー仮面ライダー」は一番好きだった曲(涙)
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