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曽根崎心中のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

曽根崎心中(1981年製作の映画)
4.5
【世にも珍しい人形浄瑠璃映画】
動画版▼
https://m.youtube.com/watch?v=q6meyRrJcOM&t=994s

国立映画アーカイブの特集「日本の女性映画人(2)――1970-1980年代」で『ねむの木の詩がきこえる』を観たついでに『曽根崎心中』を観た。てっきり増村保造の映画だと思っていたら、もう一本同名のタイトルの作品があり、しかも全編「文楽(=人形浄瑠璃)」だった。これが凄まじかった。

人形浄瑠璃を映画として捉える際に、舞台の拡張として映画のフォーマットが使われるべきである。それを惜しみなく実践しているのが本作だ。神社を舞台に、男が小屋に入り女と親密な関係になる。そこへ代官が登場するのだが、カット割りで室内と、外を交差させる。このアングルは舞台では出せない。映画としてのカット割りを用いることでより人形に魂が吹き込まれ、人間らしさが生まれてくる。一方で、舞台としての利点も活かされており、例えば男が遊郭に潜入する場面。女の着物の下、絶妙な空間に身を潜める。観客は、空間全体の構図を知ること。それにより修羅場の宙吊り状態が効果的に表現される。さらにそこへカット割りを挿入し、階段から電気に手を伸ばそうとする女。絶妙に届かない状態から落下。再度、電気がつくまでに遊郭から脱出できるかのサスペンスが始まる。舞台としての全体像の提示により、火を起こす者を背に脱出を図ろうとする様子がスリリングに映し出される。そして、L字の空間を横移動させ、奥行きを持った感情高まる移動が表現されていく。人形浄瑠璃映画は実質初めてだったのだが、ここまで豊かに空間が捉えられているとは感動であった。こういう意外な出会いができるのが国立映画アーカイブの利点なのかもしれない。
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