半兵衛

東海道 弥次喜多珍道中の半兵衛のレビュー・感想・評価

東海道 弥次喜多珍道中(1959年製作の映画)
3.5
『ヨーイ、スタート』の掛け声をやりたくて映画監督になり、現場でのスタッフへの指示やらシーンのつながりやらすべて助監督に任せていたという近江俊郎監督の悪評を先に聞いていたので見るのが不安だったが、見てみると予想以上に面白さのツボを押さえテンポも良いレベルの高い娯楽映画に仕上がっていたのでビックリ。つくづく映画というものは風聞や文章ではなく、実際に見てみないと判断できないものだと感じる。監督が凄いというよりこの場合はスタッフが優秀と言った方が正しいのかも知れないが。

主役である由利徹と南利明の適度に力の抜けた飄々とした弥次喜多の演技が、肩のこらない娯楽映画の作風とマッチしてライトな気分で見ていられる。二人の軽妙なやり取りも見事で、さすがにギャグは古いがそれでも笑えるのが凄い。他にも弥次喜多ネタをはじめ、鞍馬天狗やら荒木又右衛門、新撰組、石川五ェ門といった歴史ネタを巧妙にパロディ化しているのも見所で、元ネタを知っていると更に笑えるし知らなくても雰囲気で楽しめる。そして喜劇だけでなくチャンバラシーンも挿入し、しかもレベルが高いので見終わったあと美味しいものを腹一杯食べたかのような充実感が残る。個人的には国定忠治モノで知られる山形屋の件に爆笑してしまった、パロディものとしてもかなりのレベルの高さだし国定忠治に扮する由利の隣で顎をがくんがくん動かす南の演技が最高。

キャストの豪華さも眼を見張るものがあり、アラカンや宇津井健、高倉みゆき、小林重四郎、古川ロッパ、戦前の剣劇スター沢田清といった映画通には堪らない面子が出てくる。新東宝が誇るグラマー女優三原葉子&万里昌代の活躍もお客の期待に応えるセクシーっぷりを披露し、中でも万里が演じる『グラマー天狗』は作品の評価云々すべてがぶっ飛ぶほどのインパクトある服とスタイルでお客を魅了する。あれに対抗できるのは日本では『ヤッターマン』の深キョンぐらいか。

そんな中大きい杉からカメラを下げていき民謡を歌いながら歩く主役二人をワンカットで撮ったり、雨が降るシーンで二人の足元のみを写して雨で土がぬかるむ様を見せたりと風情あるシーンがあったりするのが心憎い。あとチャンバラシーンは舞台となる料亭が三階までありしかも細かく作られ、二階から一階までのチャンバラをワンシーンで撮るなど「東映や大映に負けないぞ」という意気込みを感じさせた。

でもフィルムの状態がかなり悪いので今後の上映は難しいかも、大半は現存していない富士映画の貴重な作品なので国立映画アーカイブで修復するか動画サイトで公開するなどして残しておいてほしい。
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