・ジャンル
不条理/コメディ/ドラマ
・あらすじ
マッチングアプリのサクラとして働く女性カオルは日々を無気力に悶々としながら過ごしていた
同僚にも馴染めず、恋人は素っ気なく食事だけすると彼女の部屋を去る
そんな最中、突如として押入れに謎の生命体が現れる
唖然としていたのも束の間、それは触手をカオルの体へと伸ばし彼女は犯されてしまう
しかし孤独で満たされないカオルにとってそれは不快な物ではなかった
やがて“アイツ”と呼ばれる様になったその生命体は増殖し彼女以外の前にも徐々に現れ始めるのだが…
・感想
奇才として注目を浴び始めている宇賀那健一監督の手掛けた短編シリーズをまとめた一作
「異物 -Extraneous Matter-」、「適応 -Coexistence-」、「増殖 -Propagation-」、「消滅 -Disappearance-」の4つのエピソードで構成されている
2本目のエピソードには地下アイドルグループ、始発待ちアンダーグラウンドの当時のメンバー達がカメオ的に出演している
田中麻琴ちゃんの出演で以前から気になっていたのと最近観た同監督の「悪魔がはらわたでいけにえで私」が凄まじい怪作だった事もあり鑑賞
突如現れた謎の生物と人間達の奇妙な共生、という内容には「悪魔がはらわたで〜」とも共通する部分がある
それでいて本作はよりミニマルでオフビートなシュールさを前面に押し出したカルト的なコメディという感じ
「悪魔がはらわたで〜」を動のカオスとすればこちらは静のカオスという感じでこれはこれで面白い
モノクロの映像と頻出する喫煙シーンでどこかエモさを演出しながらも、エロ漫画やAVに出て来る様な触手生物の出現から話が始まるというギャップが面白い
静のカオスと言った様に“アイツ”と呼ばれるこの生命体は人に危害を加えない
犯された者も快楽を感じるのみで触手姦の目的も体液を食料としているからで、同時に甘い食べ物も好き
そんな人畜無害さから人々は恐れる事もなく何なら愛着を持って接したりもする
分かりやすい“異物”に脅威の役割を与えず、それでいて社会が圧力を加えている様も「悪魔がはらわたで〜」と同じ
なのであのシュールさが好みなら楽しめると思う
明らかに異常な存在がいるのに平穏に時が流れる、というのが本当にただただクリーチャーが好きなんだろうなぁとギレルモ・デルトロみたいな感性を感じなくもないけど一方でエロス、シュール、ドラマ性の3つを不思議に絡めた様はあくまでコメディ
前述のエモ演出も含めて意味が無い事を意味ありげに表現する事自体を笑いに昇華してるのが何とも言えない味わい
何も起きず淡々と時ばかりが経っていく日常に“異物”を欲するという共感する人も多い感情をシリアスに描くのではなく不可思議な笑いに落とし込んだ世界観は人を選ぶかもしれないけど個人的には嫌いじゃない
宇賀那健一監督の作品は今後も追っていきたいなと改めて思った