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ひまわりのbluetokyoのレビュー・感想・評価

ひまわり(1970年製作の映画)
4.0
イタリア・ネオリアリズムのデ・シーカ監督の名作、ひまわり。ロケ地が多くて本当に臨場感に溢れている。
冒頭、夫のアントニオの消息を探すジョバンナと母親。冷たい役所の建物の中に小さく二人の姿。ロッセリーニ監督の「イタリア旅行」の博物館のシーンを思い起こさせる。
一転して、ジョバンナとアントニオが知り合った浜辺。アントニオのふにゃふにゃなダメ男っぷりが楽しい。三十二歳にもなったこんな男を戦地に送ってなんの役に立つのだろうと心配になってしまう。
結婚すれば十二日間の猶予が与えられるという理由でソッコーで結婚。
故郷の村で、たった十二日間の新婚生活を送るうちに本気になっていく。橋が爆撃されたとき、たぶん、二人は本当に夫婦になったんだろうな。
地獄の黙示録みたいな迫力の爆撃シーン、どうやって撮ったのだろう。よく見ると、橋をまだ渡っている人がいるのだ。
やっぱ戦争に行くのは止めよう、そうだ、精神病になった振りをすればいい、ダメ男の考えそうなことで、すぐにバレてロシア戦線送りにされてしまう。
戦後になって続々と兵士が帰還してくる。駅で大勢の残された家族が待ち受ける。その中にアントニオの写真を掲げたジョバンナ。このシーンがまったくニュースの映像みたいで素晴らしい。しかし、アントニオは帰ってこない。しばらくするとアントニオと一緒だった兵士を見付ける。
地獄の戦場シーン。ダメ男、アントニオがそこにいるのが痛々しい。
一転してソ連のモスクワに現れるジョバンナ。やつれているけど凛々しい感じ。またしても役所。役人と共にウクライナの戦地へ。
そこには一面のひまわり。そこを掻き分けるように歩くジョバンナ。ひまわりの一本一本は墓碑なのだ。大勢の人間が地下に眠っている。
再びモスクワへ。イタリア人情報があったから。たしかにイタリア人を見付けて声を掛けたりする。
アントニオについてはわからなかったが、イタリア人がいることが確かめたのでさらに聞き込み調査。ついに、アントニオらしき人がいる家を発見。
ただ、そこには奥さんと子どもがいる。しかも、けっこうかわいい。ちょうど駅に仕事が終わった労働者たちが降りるところ。
駅にはまさに探していたアントニオがいるシーン。ここがすごくいい。でも、家庭を持っているので、むしろアントニオではない方がよかったのだろうな。
ジョバンナはアントニオが乗ってきた列車に飛び乗ってしまう。そのままイタリアへ帰ってしまう。
やっぱ、異国の地よりも故郷の方がいいかな、ジョバンナも探しに来てくれたことだし、とダメ男は未練を持ち始めたのかな。ロシアでの奥さん、マーシャも優しいのでイタリア行きを許可してくれる。
ミラノに降り立つとあいにくストライキ中で交通機関がマヒしている。案内係のおっさんに事情を聴いていると、そのおっさんはヌードグラビアを密かに見ていたり、途方にくれたアントニオの後を付けてきた女が娼婦だったりする。いくらなんでもこんなことをやりにイタリアに来たんじゃない、と奮起したのか、ジョバンナに電話してやっと住所を聞き出して、雷雨の中、ジョバンナの家へ。彼女も結婚していて子供がいる。約束の毛皮の土産だよ、と言っても、もうすべては遅すぎる。マーシャの待つモスクワへ帰るアントニオ。
マーシャが戦場の雪の中で仰向けに倒れているアントニオを救い出すシーンが印象的。マーシャが邪魔なフードを取り払うと明るい金髪がこぼれる。マーシャが仰向けのアントニオの足を持って引きずる。このとき、視線がアントニオになる。アントニオの目に若くてかわいいマーシャの顔が映るのだ。浮気とは違うんだろうなあ。自分はあのとき死んで、生まれ変わった、そういうことなんだろうだなあ。ダメ男の悲しいまでのかわいさというか。これがクマみたいな女だったら、一目散でイタリアに帰ってきたような気もするけど。
たぶん、ジョバンナとアントニオは七十歳ぐらいになってから、もう一度だけ会うと思う。
そのときのアントニオの言い草。
ちゃんと、約束の土産、毛皮を買って来ただろう、それなのに、追い返すんだもの、ひどいよなあ。だって、あのとき、あんなかわいい女が助けてくれたんだぜ、一緒になろうと思うのが当然だろ。
ジョバンナの答え。
どれだけ、あなたを待ったと思うの? でも、元気で生きていて、本当によかった!
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