SANKOU

ひまわりのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ひまわり(1970年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

どこまでも拡がるひまわり畑と、美しくも哀しいヘンリー・マンシーニのテーマ曲が心に残る名作中の名作。
戦争は人の心と愛を分断するものなのだと改めて考えさせられた。
戦地に赴き地獄を味わった者と、兵士の帰還を待ち続ける者とでは同じ想いを共有するのは本当に難しいだろう。
映画はロシア戦線からの帰還兵の中に夫の姿を探す妻の描写から始まる。
夫は生きているのかと詰め寄るジョバンナの気性の激しさがまず印象に残る。
ジョバンナとアントニオの馴れ初めも非常に情熱的だ。
アントニオはアフリカ戦線行きを控えていたために、ジョバンナは彼に求婚し、結婚休暇を取ることで出征を送らせようとする。
二人が一緒にいられるのはたったの12日間。
こういう場合、とてもロマンチックで哀しみを誘うような描写が多くなりそうだが、大量の卵でオムレツを作る場面などはとてもユーモアに溢れている。
そして二人は橋が爆撃される様子を間近に見ながら、お互いに何があっても離れないと固く愛を誓い合う。
かと思えば何の前振りもなく、アントニオがナイフを持ってジョバンナに襲いかかる場面に。
実はこれは二人の作戦で、精神病院送りになることで兵役を免れようとしたのだ。
が、作戦は失敗し、アントニオはさらに過酷なロシア戦線へ送られてしまう。
やがて戦争は終わりを告げるが、ジョバンナは毎日駅のホームでアントニオの写真を手に彼の帰還を待ち続けている。
すると彼と戦線を共にしたという男が彼女に声をかける。
極寒の戦場はまさに地獄そのもので、力を使い果たしたアントニオは雪の中に倒れてしまう。
男は何とかアントニオを励まそうとするが、自分も命の危険にさらされているため、やむ無く彼を置き去りにしてしまう。
去っていく男を見つめながら、覚悟を決めたように手を上げるアントニオの痛々しい姿が目に焼き付く。
その男も極限状態にいたわけで、誰も彼を責めることは出来ないだろうが、ジョバンナは夫を置き去りにした彼を激しく責め立てる。
ジョバンナにしても、男の行動がやむを得ないものであったことを理解しているだろう。
しかし彼女は男を責めずにはいられないのだ。
それでも彼女はどこまでも強く、行動力があり大胆だ。
彼女はアントニオを探しにロシアを訪れる。
ひまわり畑の下に眠っているという数多くの兵士や民間人の供述が生々しい。
どこまでもアントニオの生存を信じているジョバンナは、ついに彼の居所に辿り着く。
しかしそこにはマーシャというロシア人女性と幼い娘がいた。
その姿を見て、何かを察知するジョバンナ。
マーシャは瀕死の状態のアントニオを看病したのだが、彼は自分の名前も記憶も失ってしまっていたらしい。
やがてマーシャはアントニオを迎えに駅へと向かう。
そして列車から降りてきたアントニオは、ジョバンナの姿を見て愕然とする。
どう見ても彼はジョバンナのことを覚えている。
アントニオの姿を見てショックを受けたジョバンナは、そのまま列車に乗り帰国する。
そしてアントニオの写真を破り捨て、彼の一切を忘れることを誓う。
ジョバンナを一目見てしまったアントニオは、再び彼女への愛を思い出してしまう。
妻子がありながら彼はジョバンナに会いにイタリアにやって来てしまう。
そして彼女に電話をかけるが、そこで彼女にも新しい相手があることを知らされる。
アントニオはジョバンナに会うこともなく立ち去ろうとするが、ストのせいで列車は動かない。
そこで彼は娼婦に声をかけられ、そのまま彼女について行ってしまう。
このあたりがアントニオの意志の弱さであろうか。
彼は娼婦のもとから再びジョバンナに電話をかける。
一度はアントニオを拒んだジョバンナだが、彼のことをまだ愛しているのだろう、住所を告げて彼に会う約束をする。
稲光だけが二人を照らす暗い部屋での再会の場面はとても印象的だ。
アントニオは何もかも捨ててやり直そうとジョバンナに縋る。
ジョバンナも本心では彼を受け入れたいのだろう。
しかしそこで突如赤ん坊の泣き声がする。
彼女にもすでに新しい家族が出来ていたのだ。
アントニオもジョバンナも、それぞれに家族の生活を守るために、二人の愛に別れを告げる。
ラストのプラットホームでの別れの場面は涙を誘う。
どちらにも事情があり、そしてどちらの言い分も正しいのだろう。
戦争さえなければ二人の愛は続いていたのかもしれない。
戦争は人の命を奪うだけではない。
それでも二人にはそれぞれに自分を待つ人がいることがせめてもの救いだと思った。
引きのショットからのクローズアップがとても効果的で、言葉はなくとも登場人物の心情を饒舌に語っていると思った。
アントニオ役のマストロヤンニはさすがの風格だが、ジョバンナ役のソフィア・ローレンの熱量には圧倒された。
マーシャ役のリュドミラ・サベリーエワも哀れみを誘う表情が印象的だった。
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