zhenli13

セールスマンのzhenli13のレビュー・感想・評価

セールスマン(1969年製作の映画)
4.1
最後のクレジットに「聖書協会の協力を得て撮影」と出ていたけどよく許可したなと。明らかに啓蒙にも販促にもならないし、経済的なものだけでない貧しさと憂鬱とカラ元気のループを皮相にあぶり出してる。オープニングタイトルはじめショットの陰影は『フェイシズ』を思い出すかっこよさ。

決起集会的な場での上司のスピーチのようすが、ロードムービーともいえる訪問販売の動機を支えるように提示される。宗教と資本主義の結びつきが当然であるかのように、同時に信仰にもとづく家族的な組織であることを標榜しつつ、訪問聖書販売という商売は崇高かつ合理的で実入りがよいものであって上手くいかないのは個人の責任、努力が足りないからだというマッチョ理論を堂々と述べる。この半年本邦で再燃・露呈した新興宗教の手口ほどではないものの、信仰を前提としたら逆らう余地はないように見える。それを聴くのは(奥の方に2,3人の女性は見えるが)ほとんどが30〜50歳前後と思われる白人男性。いい歳した男性たちが地方ドサ周りのバンドマンのようにホモソーシャルで益の少ない訪問販売活動を続け、アルバート・メイズルスのカメラがそれを延々と映す。ほんとによく撮らせてくれたなと。皮相しかない。監督としての主張の抑制、語らなさという点ではワイズマン以上かもしれない。

なんでまた潤ってなさそうな所得層の家ばかり廻るのかと思うが、アメリカの白人中産階級と根深い信仰という構造ゆえであり、それがもたらすものについて現在我々は思い知らされてる。とはいえ素性も知らぬ中年男性をよく家に上げるなとも思う。暴言吐いたりキレたり銃突きつけて追い出すなんて人もおらず(そういうケースは映してないだけかも)そこにもやはり信仰の根深さがあるよう。おいそれと軽々に追い出すことをせず、意志はあるが事情(金銭)が許さないという態度の表明が免罪符になるようだ。
あと単純に、土足の国は他人を家に上げやすいのかもと思った。
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