セールスマンの作品情報・感想・評価・動画配信

「セールスマン」に投稿された感想・評価

アメリカの資本主義と宗教信仰の狭間に立つ人々の絶望。
セールスマンの死にいたる病が映し出される。
最も有名なダイレクト・シネマの一つ。

https://www.youtube.com/watch?v=AZxrGsslIAo
Ryoma

Ryomaの感想・評価

3.9
現代アートハウス入門というイベントで鑑賞。
どこそこに「生」を根付かせてうごめいている実際の人間たちの瞬間瞬間の前にカメラを差し出したからといって、彼らの「魂」から漏れ出る微かなまでの「生」への予感を、「生きたまま」フィルムの上に焼き付けてしまうことが可能であるとは限らない。
しかしこの映画はいとも簡単にそれをやっている。
これはめちゃくちゃ面白かった。

セールスマンたちのキャラがいちいち立ってるし、なによりドキュメンタリーにも関わらず映画的なカット割やカメラを意識させず人物を映し出す手法など、演出の宝箱みたいな作品だと思った。
昨年の12月でしたが現代アートハウス入門ネオクラシックをめぐる七夜Vol.2にて、日本初公開だったセールスマン鑑賞。

企画が面白くてマニアックな名作を、現役の映像作家、映画監督の方々のティーチインをしてより作品の理解を深めていく贅沢な時間。全国のミニシアターでライブ配信などを駆使して解説中継してくれるのです。学生の頃にこんな企画があったら通い詰めていた事でしょうし、ちょっとでも興味のある方は是非足を運んでみると新しい発見に繋がるかもしれません。

本作セールスマンはとてもシンプルで1960年代後半のアメリカ。聖書を訪問販売で売り歩くセールスマンの旅を追ったドキュメンタリー。
聖書という神聖なるモノ。
世界で1番売れている本。
しかし、裕福な家庭ばかりではない時勢や地域に"高価で美しい聖書"をかなりわらけてくるぐらい強引な営業方法で販売していく中で、みている人に資本主義の本質とモラル、信仰に対する疑問を抱かせる作品。ドキュメンタリー作品なのですが、編集が上手く物語調になっていて音楽やナレーションなど無くそれでいておもしろい。いろんな一般的家庭に訪問して居るんですがどうやって撮影できたのかと思うくらい自然な視点で自然な位置にカメラが置かれているのです。テレ東かと思いました。🤣

ティーチインには映像作家の想田和弘監督がいらっしゃってました。ドキュメンタリーは疎いのですが、「選挙」や「精神0」などを制作された方。ダイレクトシネマについてや、ドキュメンタリー映画の原罪についてなどを解説していただきました。
ドキュメンタリーはカメラが入る事で、意味が生まれてくる。その中でドキュメンタリーと作り物との間の揺らぎが作品の魅力に繋がっていく。しかし、ドキュメンタリーを行う事で誰かが苦しみ傷つく可能性もある。
don't go too far 行きすぎない、やり過ぎないところにドキュメンタリーの意義がある。
そういうことを踏まえながら今度からドキュメンタリー映画も見ていきたいと思える作品でした。
想田監督のアフタートークとともに鑑賞。
ダイレクトシネマの先駆者というメイズルス監督の作品なのでドキュメンタリーとしてもそうだけど、映画としてとても面白かった。アラビアンナイトのくだりとか大好き。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUNの感想・評価

4.8
【事実は小説よりも奇なり】
Gucchi's Free Schoolが最近映画上映に力をいれている。今回、下高井戸シネマでドキュメンタリー映画の重要作にして日本ではほとんど上映されたことのない『セールスマン』が上映されました。実際に観てみたのですが、これがとても良かったです。

「事実は小説よりも奇なり」という言葉がある。

小説や映画といった虚構は、ある人生の中の事実を整形し、奇を生み出すものだ。我々は日常に点在する事実を繋ぎ合わせることで奇を生み出すことができるが、実行するには難しいものがある。事実は無数にあり、それらを組み合わせて興味深い奇が生み出せるかは不確定であるからだ。しかし、偶然の中を漂う事実が繋ぎ合わさってできた奇は力強く、まさしく小説よりも奇なりである。ドキュメンタリー映画は、我々の日常に潜む事実を繋ぎ合わせ奇を提示する存在と言える。

メイズルス兄弟の『セールスマン』は、聖書の訪問販売に密着した作品である。「美しいでしょう」と4歳の子どもに聖書を見せ興味を引き出す。「聖書は世界のベストセラーです」、「たった49.95ドルで、3種類の方法から支払えますよ」と畳み掛けるようにして主婦に売り込む男。彼女は躊躇う。夫の許可なしに購入すること。男は「サプライズプレゼントにしてみては」とすぐさま切り返す。この頭の切れる男はポール・ブレナム。自由を求めセールスマンとなった男だ。別の訪問先で、セールスマンは自由でいいですねと言われると誇らしげにしている。自由の国アメリカの夢を背負った仕草が垣間見える。一方で、現実は厳しい。研修会場では、徹底的に聖書が売れないのは自分が悪いと自己責任論を刷り込まれる。周囲を見渡せば、リストラされた者の影がチラつく。

彼はジェームズ、レイモンド、チャールズと共に訪問販売の旅へと出る。それぞれにニックネームがついており、そこには友情が芽生えている。ポールは運転しながらカメラに向かって、3人の紹介を始める。ジェームズは、買いたくないと語るスペイン人に執拗に別の聖書を売りこもうとする。レイモンドは、時間の無駄だと分かれば早々に諦めて次の訪問先へと向かう。チャールズは聖書の購入費用をいかに捻出するかを考え、訪問相手に牛乳代を節約してみては、隣人から借金してみてはと提案し、さりげなくサインするタイミングで価格を釣り上げたりと容赦ない営業活動を行っている。

映画を観ていくと、リストラされた者の影が濃くなっていくように感じる。その原因はポールにあった。ポールはかつて1日に10冊以上も売り上げていたが、最近はスランプに陥っている。日によっては1冊も売れない時もある。そのせいだろうか、セールスの旅に出て早々に帰りたいと吐露する。列車に乗れば研修の場面が交差する。研修では、周囲の者が「次は2倍の売り上げを目指します」などと高い目標を掲げている。気分が落ち込んだ時に、煌びやかな過去を思い出して辛くなる心理状態を表現するような編集が施されている。段々と事実が虚構より奇なる世界を形成していく。やがて、精神のどん底に追い込まれた彼は、仲間の前で醜態を晒し、失意の中映画は終わる。アーサー・ミラーの「セールスマンの死」は、人生に疲れたセールスマンであるウイリー・ローマンが帰宅するところから物語が始まる。つまり、本作は「セールスマンの死」の序章であることを匂わせるエンディングを迎えているといえる。

「イエス・キリストは世界一のセールスマン」とビジネス化された宗教がもたらした自由。その中での厳しい現実に眼差しを向けている本作。聖書の売り込みに失敗する者に対し、かつて掃除機の訪問販売していた亭主が哀れみの目を向ける姿。聖書を購入する段階になって現れる隣人に対して邪魔されないようにトークを切り上げようとする血生臭い会話のアクション。セールスマンの悲哀を象徴するように流れる、くたびれた旋律によるビートルズの「イエスタデイ」などといった事実を積み上げていき、メイズルス兄弟は滑稽でグロテスクな奇を我々に提示したのだ。
sugim

sugimの感想・評価

3.7
おもしろいが…こんなにおもしろくなっちゃうもんか??
優美すぎてもうグニャングニャンなビートルズのアレンジ、こんな曲あったっけ?と思ってたらyesterdayか…。
今となっては見慣れた描写、というか後期資本主義になった現在では少し牧歌的な印象があって、半分くらい寝てしまった。
「聖書は世界で最も売れている書物なのです」。訪問販売員のポール・ブレナンはそう口にする。ロッキングチェアに座る女性は、そのセールストークに耳を傾けながら、なんとか断る方便を探しているようだ。ポールが売ろうとしている聖書は、ただの聖書ではない。特注仕様の装幀にサイズは広辞苑並のヴォリューム感、そしてなによりも高額なのである。さらにカトリック大事典とのセット購入を選択すれば、値はより張るだろう。そのため支払い方法は三通り用意されている。信仰心か、生活か。彼女はためらいつつ、おそらく家計を案じてか、買うのを断る。そのとき彼女の子どもがおもむろにピアノを弾き始める。その悲劇的な調子の中、残念そうにうつむくポールの表情を捉えて最初のシーンは終わる。
 周知のように、1969年にメイズルス兄弟―兄アルバートと弟デイヴィッド―によって製作された『セールスマン』は今日「ダイレクト・シネマ」の代表作の一本に数えられている。これもまたよく知られているように、「ダイレクト・シネマ」とは1960年代に米国で興った「観察」を旨とするドキュメンタリー映画における新たな潮流を指す。その作り手たちは、ナレーションやインタビューを排し、観察対象を直接的に提示するためカメラの存在を消すよう努めた。メイズルス兄弟がその「観察」の対象として選んだのが聖書を訪問販売するセールスマンたちである。
 撮影を担当したアルバートがお気に入りだと語る上述した冒頭のシーンは、観る者をいきなり聖書を訪問販売している現場に解説も説明もなく立ち合わせる。その際、ポールと女性とその子どもがカメラの存在を意識していない。いや意識はしているはずなのだけど、たとえばカメラ目線になることは劇中通してほとんどない(ただ例外的に、ポールが明らかにカメラの背後にいる人物に向けて他の販売員たちの特徴について語る場面がある)。このようにカメラが透明に振る舞うことによって、私たちはセールスの現場を観察することができるのだ。(品川悠)

全文はこちら↓
https://www.nobodymag.com/journal/archives/2021/1228_1453.php
免罪符の発行から教会の不信からここまで何の違和感もないけど「聖書販売は金になる」はさすがにド直球すぎるダイレクトシネマ。聖書のセールスマンを通して見える消費社会と貧困が鮮烈。”幸せ“の売り文句と反対に明日も分からない生活に“怖い”と呟くお客の姿。アナグマやウサギなど動物の呼び名が付く販売員は「ストライキ」のスパイを想起させる。資本主義に囚われた販売員ポールの悲哀に息が詰まりそうだった。これ聖書販売会社?よく上映させてくれたなあ。

下高井戸のメイズルス特集とアートハウスの上映は全くの偶然だったけどその後互いに協調したという話を想田監督のトークで聞けてよかった。
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