あくとる

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)のあくとるのレビュー・感想・評価

4.5
"1969年、ハーレム、失われた黒い革命の記録"

※本作は個人的な思い入れが強いため、いつもより長文です。

Filmarksを利用されているような映画好きの皆さんなら、「この人の作品なら間違いない!」と言えるような"信頼できる作り手"が少なからずいると思います。
自分の場合はエドガー・ライトやクリストファー・ミラー&フィル・ロードのコンビなどです。

では、音楽においては?
存命のミュージシャンで、私が最も信頼がおける男、それが本作の監督である"クエストラブ"なのです。
至高のヒップホップ・バンド、"ザ・ルーツ"のドラマーにして、ソウルレジェンドたちの復活作を手掛けてきた敏腕プロデューサー。
ディアンジェロの歴史的大傑作『Voodoo』の独特なリズムも彼なしでは有り得なかった。
故プリンスも曲の中で、「学んで更なる高みを目指したいなら、ディアンジェロかクエストラブと話せば良い(ざっくり翻訳)」と言っていたほど。
個人的には、ザ・ルーツやディアンジェロは、私がブラックミュージック沼にハマったきっかけであり、人一倍思い入れがあります。
高校生時代に彼らの音楽に出会ったことで、完全に人生が変わったのです。

前置きが長くなりましたが、本作の話に入っていきましょう。
本作は1969年6月から8月にわたって開催されたハーレム・カルチュラル・フェスティバルを追ったドキュメンタリー作品。
出演しているメンツはスティービー・ワンダー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ニーナ・シモンなどなど本当に豪華。
封印されていた彼らの全盛期のライブ映像がついに解禁され、映画館で観られるというだけでもブラックミュージック好きには堪らないのに、そのうえ監督(監修)はクエストラブという文句無しの人選に、知ったときは思わず唸ってしまった。
この貴重な映像群のまとめ役として、クエストラブ以上に適任な人物が他にいるだろうか。
そんな観る前から間違いない出来を確信できる作品、実際観てみるとどうだったのか。

以下、やっと感想に入ります。
いやはや完璧の一言。
1969年という時代の政治的背景、黒人たちの噴火寸前の怒りと、ソウルフルで美しい音楽による高揚感が合わさり、混沌とした会場の空気をそのまま真空パックしたかのような生々しいライブ映像。
そして、"時代の証言者たち"へのインタビューによる肉付けによって、このフェスの音楽的価値と、それ以上に黒人やハーレムの文化において、いかに重大な意味があったのか伝わってくる濃厚で力強い作品でした。
とにかく情報量も物凄いので一度観ただけじゃまだまだ堪能しきったとは言えない。

ハイライトは、まずスライ&ザ・ファミリー・ストーンの出演シーン全て。
いかにスライが革新的だったのかが、時代と照らし合わせることでよく分かった。
また、スティービーのファンキー過ぎるドラムソロとクラビネットソロも鮮烈。
なんとも貴重な映像だ。
そして、圧倒的なカリスマ性を見せるニーナ・シモン。
"To be Young Gifted & Black"は彼女が歌うからこそ信じられる説得力と希望に満ちている。

その他、インタビューにアラン・リーズやシーラEが出てくる辺りさすがクエストラブと思ったり、重要なポイントは山ほどありそうなのですが、とりあえず一度目の鑑賞の感想はこの辺りで終わります。
上映館が少ないのは残念ですが、是非劇場で観て欲しい個人的に激推しの一作です。