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こちらあみ子のロアーのレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
4.4
何の気無しにオーディブルで『とんこつQ&A』を聴いたらすっかり今村夏子作品にハマって、とりあえずオーディブルにある本は全部聴き終わってしまったので、今村夏子の代表作である『こちらあみ子』の映像化作品も観てみた。

作者の描く一見普通のようで、次第にどこかおかしいと気づかされる世界観が好きで、そのおかしさを否定しないところも好き。
例え主人公が精神を病んでいたとしても、それは読者からそう見えるだけで、主人公の中ではなんの変哲もない日常が過ぎているだけだったりする。側から見たら不幸に見える結末でも、主人公の中ではハッピーエンドだったりする。だからこそ読書後に不思議な余韻が残るし「普通って何だろう?幸せって何だろう?普通であることが幸せなの?」とふと考えてしまったりする。

この映画も原作ではあみ子視点なのかな?
劇中でははっきり明言されていないけど、明らかに発達障害を抱えている主人公あみ子。あみ子にはあみ子の世界があって、あみ子はただ自分が考えるままに毎日を生きている。だけど、周りからはあみ子は奇妙な子にしか見えないし、あみ子の言動に深く傷つけられて苦しんでしまったりもする。

あみ子に悪気はなく、常識や言ってはいけないことが理解できないだけだと分かっているから、家族もまわりも強くあみ子を叱ったりはしない。でも、大人だって人間だから傷つくし怒りも感じてしまうのも仕方がなくて、そのどうしようもない気持ちを抱えてしまうせいで自分の心が壊れてしまうことだってある。この答えのないどうしようもなさがリアルで、観ていて中々しんどくなった。映像化されたことでどうしてもあみ子の視点ではなく、周りの視点で観てしまうからしんどいんだと思う。でも同時に、すごくオススメで多くの人に観てもらいたい映画でもあった。

人によってはあみ子の義母や父親のことを酷いと感じるかも知れないけど、私には誰も責められなかった。でも兄弟だから、幼馴染だから、あなたならあの子に好かれてるからと、”あみ子ちゃん係”のように兄弟姉妹や友達に責任を負わせることだけは絶対にいけないと思った。
確かに大人ではサポートできない部分もあるけど「あの子の面倒を見てあげてね」という言葉がどれほど負担になって"係"の子を追い詰めてしまうのか。その辺を安易に考える大人のせいで傷つく子どもがいるのは悲し過ぎる。でも、お兄ちゃんがあみ子に言った言葉は、当たり前のようでいてすごく本質をついていてハッとさせられた。

ラストは、そこでその道を選んでしまったら"あみ子"ではないと強く感じたので、何も解決はしていないし側から見たら不幸かもしれないけど、それでもあみ子はあみ子だと感じる作者らしい余韻のある終わり方で好きだった。あみ子をあまりに自然に演じ切っていたので、正直、この役を演じたことでいじめられたりしないかな?と思わず余計な心配までしてしまった大沢一菜ちゃんの演技にも心からの拍手を送りたい。
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