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ナイブズ・アウト:グラス・オニオンの都部のレビュー・感想・評価

4.7
前作:『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』を鑑賞して、このシリーズに見事に心を奪われた身としては試写会の招待は喜ばしかったのですが、前作の斬れ味に匹敵する作品が果たして見られるのかという一抹の不安があったのも事実で────ではそんな本作の出来がどうだったかと言えば、鑑賞前の不安がまったくの杞憂で嬉しい限りです。

今年度公開の映画として個人的な好みの上澄みに位置する作品で、またコメディとミステリが心地よく同居した万人向けの映画としてより完成されていたので舌を巻かずにはいられませまんね。
このシリーズの特徴とも言えるエッジの効いたシニカルな社会的テーマの結実は前作からグレードアップしており、爽快な布石と伏線の回収劇の開始と共に表題の『グラスオニオン』が指し示す本当の意味を観客は知り、迎える最終局面の気持ち良さと言ったらないでしょう。
そこで用いられる『手段』があまりにも痛快なもので、あのシーンを劇場の大スクリーンで観ることが出来たのは役得というものです。

本作が前作から変化した点として作風と演出の二点が上げられます。
前者は──クラシカルな屋敷からバカンス気分の孤島という舞台の変化に応じてコメディの割合が増している印象で、挿入される小ネタの数々に笑わされるのですが、これによりミステリというジャンルが抱える欠点である事件発生までのテンポ感の鈍重さを補っていたかなと。
また後者──場に適した音楽や印象的な画の挿入は監督の遊び心として随所に仕込まれる一方で、それこそが映画としての締まりが良くしています。かような万人が呑み込みやすい作りをした上で、ミステリとしての面白味をより研鑽させているのは個人評価が非常に高いです。

この物語のタイトルに『グラス・オニオン』と名付けるの、あまりにもセンスが良すぎる……。

本作はライアン・ジョンソン監督の最高傑作であり、ミステリ映画監督としての彼の地位を改めて確立させる傑作だったのではないかと言えるでしょう。
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