Ren

ナイブズ・アウト:グラス・オニオンのRenのレビュー・感想・評価

4.0
ただ一言「おもしれー映画」で感想を終わらせてしまいたいような、大味痛快痛烈風刺古典現代ミステリの決定版だった。前作の予習一切必要無し、年内の鑑賞をおすすめ。壊し屋ライアン・ジョンソンの真骨頂。

招待状を受け取ったTHEクセ者たちがクルーザーに乗ってTHE孤島へ向かい、THE成金のTHE豪邸でバカンスを謳歌するという前作同様それっぽさ全開のプロット。
ただ前作ではまだアガサ・クリスティのデッサンめいたことをやっていてまだ地に足着いていたけど、今作はより現代にぐっと寄せてきた印象。色は残しながらも雰囲気はガラッと変えてきているので前作ファンからは微妙な反応もありそうだけど、個人的にはそれを超える創意工夫とサービス精神のおかげで大いに楽しめた。このシリーズもトンデモ映画半歩手前のところまで来たと思う。

序盤は会話主体で物語が進む割に話の軸が確定しないので、冗長な印象を受けた。が、開始約1時間を境にバツンとギアチェンジし、新事実の驚きと伏線回収の交互浴で見事にラストまで運んでいく。
映像の快楽に依存する展開が増えていたところにパワーアップを感じた。招待状が箱型のパズルを解くと出てくる仕組みなど、意味は無いけどワクワクするし気持ち良い。ラストシークエンスはその最たる例だ。
だから小説化されたときによりつまらなくなるのは前作よりこっち。映画のための物語。

一応、社会派な面があると言えなくもないけど、カリカチュアライズされすぎていたためどちらかと言えばエンタメに振り切る覚悟を感じた。元々リアルな人間模様を楽しむ監督ではないのでこれでいい。何者かに自己を掌握され搾取されていることから目を覚まして、映画ならではの反抗に出る映画。『キングスマン』みたいだと少し思った。
終盤までガチガチに編み込まれた脚本を披露しておいて、匙を投げるようなおバカ展開(はっきり言うけどおバカコメディだ)で強引に束ねるのが可笑しくなってしまう。

ただ物語がスカッとジャパンに振られすぎてしまった結果、アフターケア的な部分が無かったのは少し弱点か。前作はもう少し優しさの話になっていただけに余計感じてしまうのかも。

その他、
○ パンデミック下で孤島バカンスしてるのが良かった。鬱屈としたコロナ禍を吹き飛ばすような能天気さ。
○ なんの説明もされない謎の薬。分からんけど取り敢えずなんかやっとけというコロナ禍対策へのイジり?
○ 探偵ブノワのどこかトボけたキャラクターは相変わらずで、彼よりゲストキャラのほうが活躍するのも相変わらず。長期シリーズ化を見込んで、ブノワというキャラを安易に摩耗させないという決意の表れがあった。



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》
前作『~ 名探偵と刃の館の秘密』のネタバレもします!注意!










『~ 最後のジェダイ』然り、ライアン・ジョンソンは作り上げた(上げられた)既存のジャンルとか作品を一度よく観察した上でそれを壊してみる・違う形にしてみることが好きなのか?『イングロリアス・バスターズ』かよ。アガサっぽいものを自力で作り上げて、自力でそれを物理的に木っ端微塵にする。

正直、フーダニットに関しては直球すぎたのでもっと驚かせて欲しかった。前作のアナ・デ・アルマスと同じ立ち位置(物語の実質的な主人公)に同じようにジャネール・モネイを用意したなら、クリエヴァの立ち位置は知名度から言ってそりゃノートンでしょうよ。計画段階で「マイルズ(エドワード・ノートン)犯人説」をもっと出しておかないとむしろ不自然。ハナからコロンボとか古畑のような倒叙ものだと思って楽しむのが吉なのか?

『真実の行方』『ファイト・クラブ』『アメリカン・ヒストリーX』など童顔に反して拗らせ最低マチズモを演じてきたノートンがあの役をやっていたのは良い。板についている。

次回作では「豪華キャスト集結とはいえ、さすがに知名度や人気から言ってこいつが犯人だと予想できてしまう」部分をもっとアップデートしたミステリが観てみたいな。倒叙に振り切るのか、キャスティングからミスリードしてくるのか、やりようはある。
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