菩薩

サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールドの菩薩のレビュー・感想・評価

4.2
市場原理の中で自らの父親の手により商品化された一人の女性がモノでは無くヒトとしてのアイデンティティを取り戻すだけでなく、異国にて言葉を学び職と居場所を得た後にその手で幸福を選び取る権利までをも取り返す戦いのお話。フェミニズムなんて単語を聞くと脊髄反射で警戒心や反抗心を持ってしまうマジョリティ男性はまだまだ多くいるであろうが、それは一方的に取り上げた選択肢を返還する運動であり、権利の侵害などではなくむしろ男性が一方的に背負っている荷物を少しだけ軽くする事にも繋がる筈であると、こう言う作品を観る度に強く思う。勿論その過程に於いて男性の尽力がある事を蔑ろにするつもりも無いが、最終的に誰よりもその恩恵を得ているのは男性達自身である事を無視してもいけない。男性の女性に対する所有欲や、女たらしの癖に強過ぎる女神化(劇中では天使と言っていたが)とその自分勝手な規範から逸脱する事に対しての勝手な反感、先回り奉仕に対する身的代償の要求と、本当にそれでも自称人権派なのか…?と思ってしまう点もありながら、まぁでも…その気持ちが痛い程分かってしまうと言うのが個人的には非常に悔しいし悲しい、人間は欲求に対し争う術を持たない…。実話に基づいたお話、との事で、俄に香りだした移民排斥運動が途端に加速していく過程などかなりゾッとさせられたが、その都度そのぽっかり空いた空白を埋める覚悟はあるのかと問いたくなる、今日のサム・フリークスは「テロリズムかく生まれり」の二本立てでもあったのかなと思う。白人女性との仄かなシスターフッドな関係性も良かった。この埋もれし傑作を掘り起こした岡さんに対しての尊敬度が爆上がりした、いい映画だった。こんな作品が黙殺されている時点で映画業界の深い闇と病みを実感する。
菩薩

菩薩