都部

ドラえもん のび太と雲の王国の都部のレビュー・感想・評価

3.7
かなり面白かった。天国の代替として雲の王国を作る筋書きはアニメシリーズでも見られた浪漫奇譚のそれであるが、地上と同等あるいはそれ以上の科学力を所有する天上人/天上世界の登場により物語は加速度的に厚みのあるものへと変化していく。

本作でも人類の環境破壊に対する問題提起が成されるのだが、本質はその先にある強硬策を巡る抑止力を用いた力関係の拮抗の重要性にあり、ある種 保護活動の過激な結論としての天上人のノア計画を防ぐ為に、雲もどしガスをチラつかせるという展開は現実の核兵器を思い出させるからとても愉快だ。その抑止力が自分の手から離れて、実際に使われてしまった場合の危険性をも言及する展開の周到ぶり。かように簡潔に子供向けの作品の中でそれを描いているのが挑戦的で大変好感が持てる。

一見して正しい立場にいる天上人の傲慢さにしっかり触れているのも印象的で、未成年の無知な子供に人類の進退を委ね、ポジショントークを投げ掛けることで結論ありきの流れに持っていく下りは『き、汚ぇ……!!』というしかない。自分達が正しい立場にいると過信した横柄な立ち振る舞いを描写しながら、高位な人間として施しを与える慈しみの目線も語られているからか種族単位で魅力的な存在であったと思う。

また物語の中盤でドラえもんが無力化されてボケる展開があるが、そんなドラえもんを甲斐甲斐しく世話するのび太の姿は成長を感じさせ、さながらヤングケアラーのような構図に陥る一連のシークエンスは間違いなく面白い。分断されたしずか組が高度な天上人の文化に触れている場面も知的好奇心を擽られる展開が続き、並行して展開される中盤の設定部分に弛さがないのがかなり良いですね。あと過去映画作品からの繋がりを拾って展開に組み込む手腕も見事で、感情論で全てが解決したわけではない納得感のある締め方だったのも非常に好ましかった。
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