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途切れない電話/Call Waitingのdm10foreverのレビュー・感想・評価

途切れない電話/Call Waiting(2020年製作の映画)
3.8
【「境界」と「限界」】

2020年フランス発のリアルなショートムービー。

新型コロナの影響で在宅ワークを行うローズ。
夫はまだ仕事から帰ってはおらず、家には彼女と2人の子供がいた。
ローズの仕事は「救急コールセンターのオペレーター」。
今日は休みではあるものの、ずっと家から出られない子供たちのストレスとも向き合いつつ、中々落ち着いた休みは取れない。

そこへかかってくる一本の電話。
「コールセンターが大混雑なんだ。休日のところ申し訳ないんだが・・・。」
「夕食を済ませたら30分以内にログインします」
「ロゼ、助かるよ。子供の世話もしながら大変なことも承知してるのだが・・・。」

<今は異例の事態>

この作品では、極力余計な背景を含ませずに「仕事」と「私生活」の両立の難しさという部分を端的に描いている。

一般に「仕事と家庭の両立」という言葉は以前からも広く使われているが、現状ではどうもその意味合いにも変化が現れ始めている。

従来、その言葉が持っていた意味は「仕事は仕事」「家庭は家庭」とキチンと区別できる「境界線」を引いた上で、それぞれに対してちゃんと向き合うというものだった。
いや、今でも基本的にはそうなんだと思う。
しかし、昨今のコロナ禍において急速に普及した「リモートワーク(在宅ワーク)」によって、どうもそこにあったはずの区別(境界線)が曖昧になり、いつしか「両立」とは「同時に行うこと」を求められてしまう状況に陥ってしまうケースも少なくないのだという。

もちろん、全ての「リモートワーク」がこれに該当するわけでもないだろうし、リモートワークのお陰で仕事の効率が上がったという人だっているだろう。
きっとそれは「家庭(生活)」の中に「仕事」が入る余地がある(あった)人なのかもしれない。

今作の主人公ローズは決して不幸な境遇というわけでもないし、極端なワンオペ育児を強いられているような状況も描かれてはいなかった。
でも、彼女が行っている「救急コールセンター」の業務は一瞬の判断で電話の向こうの人の生死を左右するくらいの集中力を要する仕事。
きつい言い方をすれば、彼女のように小さな子供や老人など、注意を払わなければならないような人がいる家で行えるような仕事ではなかったのではないだろうか・・・。
つまり、彼女の生活の中に「仕事」が入り込める余地は殆どなかったのだ。

それでも、きっと「コロナ禍」じゃなければ子供たちは学校へ行くだろうし、ローズ自身も職場で「仕事だけ」に集中できただろう。
しかし、状況が一変した今は、肉体的にも精神的にもそれまで我々が暗黙で保っていた「距離感」が狂ってしまった。
それまで自然に守られていたはずの「パーソナルスペース」は、外出禁止やロックダウンなどの措置で取れなくなり、家族はストレスを抱えたまま家の中に「軟禁」された。
逆に、「ソーシャルディスタンス」という見えない壁のせいで、円滑な人間関係を築く上での「コミュニケーション」は従来のような距離で行うことは出来なくなった。

みな、他人との距離に苦しんでいる。

作中で上司がローズに言った一言
<今は異例の事態>
きっと、こんな状況じゃなければ、ここまで救急コールセンターの電話が鳴り続けることはなかったのかもしれない。
幼い子供がいる非番のスタッフをわざわざ呼び出さなければならい状況。

街中の至る所で「誰かに助けを求める人」がこんなにいる。
いつも以上に「誰かの助け」「誰かの声」を必要としている人が溢れている。
・・・これも、コロナ禍における人々の不安の表れなのかもしれない。

「途切れない電話」
それは今の人間が抱える「不安」や「悲鳴」のようなものなのかもしれない。
そして、ローズのような仕事をしてくれている人がいるからこそ、ギリギリのところで命だけではなく心を救われている人もたくさんいるのかもしれない。

今夜の出来事は、様々な不運なタイミングが重なっただけ。
彼女に出来る事は全てやった。
それでも、もしあの時・・・・
どうしたって後悔は残る・・・

堪らなくなってベランダに飛び出し、泣きながら煙草を咥えるローズ。
ママを心配して寄り添う娘。
今は娘が近くにいてくれて逆に心が救われたローズ。



・・・そしてまた電話のベルが鳴る。
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