アキラナウェイ

梅切らぬバカのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

梅切らぬバカ(2021年製作の映画)
3.8
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」

桜の場合、枝の切り口から菌が入りやすく腐りやすい為、無闇に剪定してはならない。一方で、梅は無駄な枝を切ってやらないと樹形が崩れてしまい、良い花や実がつかなくなってしまう。

"個性に応じた手の掛け方が大切"という諺。

本作を鑑賞後、
この諺を改めて読むと
…なるほど。

自閉症の息子と母親の二人暮らし。
50歳の誕生日を迎えた息子に対し、母は言う。

「このまま共倒れになっちゃうのかね?」

それでも母は、軽口を叩きながらも甲斐甲斐しく息子の世話をする。
髪を切ったり、爪を切ったり。
歩道に突き出た梅の木は切らないけれど…。

山田珠子(加賀まりこ)は、息子・忠男(塚地武雅)と二人暮らし。庭にある梅の木の枝は伸び放題で、隣の里村家からは苦情が。ある日、グループホームの案内を受けた珠子は、悩んだ末に忠男の入居を決める—— 。

6時45分です。

7時10分です。

決まった時間に起床し、朝食を摂る。"忠(ちゅう)さん"こと忠男の、時間を読み上げる様が可笑しくて楽しくて。ついつい笑みが溢れてしまう。

塚地さん。コメディアンである事を一瞬忘れてしまう程、演技が上手い。

しかし、更に輪をかけて演技が上手い加賀まりこ。主演は54年振りだというから驚き。人気占い師という設定も良い。歯に衣着せぬ物言いが痛快。

地域コミュニティの中で起きる不和。
自閉症の人達に向けられた偏見やヘイト発言。

不穏な空気も漂うけれど、忠さんや母の珠子は自分達のペースで時を刻んでいる。

通行人の邪魔になる梅の木。
地域住民に邪険にされる障がい者。
でも、個性に応じた手の掛け方(剪定)を施せば、やがて美しい花を咲かせ、たわわな実を実らせるに違いない。

77分という短尺ながら、
その芯には1つのテーマがしっかりと通っていて、かつ心温まる肌触り。

良作でした。