うかりシネマ

ガンパウダー・ミルクシェイクのうかりシネマのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

“ファーム”に所属する殺し屋・サムは任務に失敗し、組織から追われることになる。
環境利用で戦うスタイルなのでコミカルであるべきだが、徹頭徹尾シリアスに描かれる。かといってリアリティラインが高いわけでもない。ジャズやラップ、ポップスといった主人公を象徴する共通した音楽は使われず、スタイリッシュさもない。

中盤の両腕を封じた戦闘はユニークで面白いが、最強主人公というわけでもないのでそこまで乗り切れない。それまでに描かれたアクションが無防備な敵を撃つのと雑魚との素手での戦闘なので、基本をやってから弱体化させてほしかった。

<ジョン・ウィック>シリーズの影響は避けられないジャンルなのにファームはコンチネンタルのように魅力的ではない。何故なら「男による支配からの脱却」のメタファーだから。
主人公は仁義を通すことはなく、自分の不始末で失った金も目の前にあるのに拾わないし、そのことを組織にも伝えない。「脱却」のために組織に戻らないから。
中立であるべき闇病院なのに主人公を陥れるとか、ファーム直営なのにルールも警備もガバガバのダイナーとか、フェミニズム都合でこの手のアンダーグラウンド組織の魅力の一切が奪われている。
後半の図書館でのアクションも主人公から武器を取り上げてデバフで楽しませるが、それならやはり最強主人公であるべき。そう設定しないのはエンパワメント文脈的に「弱き者が立ち上がる」だからなんだろう。

出てくる敵は全員愚かな男で、味方は全員優秀な女。男が助けるとか、女同士で歪み合うことは一切ない。
フェミニズムの教義で、例外……つまり創作的な面白さやリアリズムに則った揺らぎは許されないのだろう。
主人公は少女の父親を殺してしまうが、「女だから」という理由で少女に許される。
フェミニストを標榜する男がラスボスだが対話はされず、「ステレオタイプな発言をする罪」で相互理解を踏み躙って殺す。 
万事がこの経典によって判断され、創作理論は道を譲る。

女性アクション——特に高齢の女性が活躍するのは珍しく、フェミニズムに関する細かいことを気にしなければインスタントに楽しめるが、殺し屋映画までジャンルを広げれば名作は無数にあるので、“教徒”でない限りはわざわざ選ぶ必要がない。“宗教”要素を除いて評価すると佳作。