Pinch

スターダストのPinchのレビュー・感想・評価

スターダスト(2020年製作の映画)
4.0
『世界を売った男』(1970年11月)は、衒学的にして攻撃的、自虐的にして喜劇的なテイストを持つ非常にユニークなアルバムである。他者に対する軽蔑、自己否定と自己変革を歌った『円軌道の幅』に始まり、古代人の精神を描写した『超人たち』に終わる、と言えばお分かりいただけるだろうか。基本ハードロックの音楽形式が、焦り、怒り、混乱を表している。一方、次のアルバムである『ハンキー・ドーリー』(1971年12月)のバラード形式による落ち着きは、ほのかな絶望と希望を感じながらの再出発という感覚だ。この経緯を踏まえて、『ジギー・スターダスト』(1972年6月)という詩的で実存的なロックンロール神話の創造へとつながっていく。

というような経過に馴染みがなければ、面白くも何ともない映画。『私の死』で映画を終わらせたのは、ボウイが人間の暗い側面を基盤に据えたアーティストであることを確認するため。

冒頭のパーティーで、マーク・ボランが自作の文学的な詩を朗読し、「意識の高みへ昇り、そこで神の声を聞くんだ」と言っている。デヴィッド・ボウイは、『ジギー・スターダスト』を通して孤独な若者たちに新たな福音を与えた。このような文学性、哲学性は、日本のロックスターには皆無である。大袈裟に聞こえるかもしれないが、これは戦後教育の否定的成果と言える。戦後の日本人は、ほどほどの経済的な豊かさと引き換えに、自由な思考をつかさどる舌を切られたのだ。
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