ぱる

すべてうまくいきますようにのぱるのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

僕自身、数年前に脳卒中で倒れて半身麻痺になってしまった父親がいることもあり観ようと思った作品。

主人公の父であるアンドレが脳卒中で倒れ半身麻痺になってしまうとこからこの物語が始まる。
半身麻痺になってしまったアンドレの絶望感、アンドレをなんとかサポートしてあげようとするエマニュエルたち。
とうとうアンドレはエマニュエルに「終わらせてくれ」と頼んでしまう。

僕の父親も、半身麻痺になってリハビリのおかげで今はゆっくりだが歩けるようにまで回復した。しかしそこに至るまでの父親の辛さ、「終わらせてくれ」とは言われないまでも、あのまま楽に逝きたかった。というような発言も何度も聞いた。そんな父親を見るのがとても辛かった。正直憤る気持ちを感じることもあった。こんなに家族が心配してサポートしてるのにそんな事言うなよ、と。アンドレの主治医が言っていたように鬱のような状態であったと思う。
半身麻痺を受け止めることなんて到底難しいだろうし、本当の辛さは本人しかわからないだろうけど、僕は父になんとか前向きに生きていってほしいと思っていた。
麻痺によって片側が垂れたアンドレの顔はあの頃の父親の顔とかぶりそれだけで込みあげるものがあった。


アンドレの安楽死を実現させる為に、葛藤を感じながらも計画を進めていくエマニュエルと妹のパスカル。
その途中途中で、さまざまな障壁にぶつかる。それはおもに周りの人々によるものだったが、僕はそれらをアンドレの死を食い止める、アンドレの気持ちを改めさせるチャンスという目線でこの映画を観ていた。
アンドレがベッドからイスに乗り移れるようになったことに大喜びするエマニュエルとアンドレのドヤ顔。孫の演奏会を観てからがいいと死の日にちを遅らすアンドレ。1人で電話をかけられたんだと自慢げに話すアンドレとそれに喜ぶ娘2人。
これらのシーンの度に、『アンドレの気持ちよ変われ!生きてくれ!』と切に願ってしまった。
最後の晩餐の時に真っ赤なカーディガンを着てくるエマニュエルの気持ちにも泣きそうになった。
それでもアンドレの気持ちは変わらない。

最後の最後の障壁(僕としてはアンドレの気持ちを変えるチャンス)としてスイスに向かう道中で救急車の隊員2人に安楽死のことを知られ、1人は宗教上の理由で自殺の手伝いはできないと言う。もう1人は信仰心はそこまでないが、アンドレに「人生は美しい。」と言うシーン。それに対して苦笑いで返すアンドレ。それを観て僕は、『そうだ人生は美しいって!生きてさえいればなんとかなるって!こういう家族でもなんでもないひとの何気ない一言が意外と人の気持ち変えることもあるだろ!頼むよアンドレ、、』と切に願った。笑

スイスの美しい山々の風景からのこの救急隊のセリフのシーン。上映中は人生に希望を持たせるとても良いシーンに感じていた。けれども家に帰って寝床についてあの時のアンドレについて考えていると、苦笑いをしたアンドレの受け取り方は違ったんじゃないかと思えてきた。アンドレは半身麻痺になってもちろん人生を振り返った。不自由なからだになってまでこれからも生きていきたいと思えないほどに彼の人生は満ち足りていたのだろう。「人生は美しかった」という過去形でしかないアンドレと若い希望に満ち溢れた若者が言う「人生は美しい」がすごく対象的に感じた。あの苦笑いのアンドレから、次にアンドレが映るのは全てうまくいってベッドに横たわるアンドレ。
エマニュエルの、全てうまくいったわ。という言葉で唐突に終わる物語。なんとも言えない切なさが残りました。

尊厳死という重いテーマでありながら、随所にユーモアというか暖かみを感じるシーンがありそれがすごく印象的でした。
僕自身、父が倒れてからリハビリをして今の生活に至るまでの日々に重なるものがあり、観て良かったと思える映画です。
決して前向きではないかもしれないけど、生きることを選んでくれた父親に今より少しでも優しくできたらなと思います。
ぱる

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