みゅうちょび

英雄の証明のみゅうちょびのレビュー・感想・評価

英雄の証明(2021年製作の映画)
4.0
やっと鑑賞。

いつもこの監督作に登場する口数の多い女性たちに「黙れー!」と叫びたくなるのですが、今回は主役も男性、逆に口数も少なく落ち着いて観れました。※因みにわたくし女です。

しかし、どの作品も面白いんですよね。今作も展開の作り方の巧みさでしっかり魅せてくれます。

色々あって、拾った金貨を落とし主に返したことが服役囚の善行と評判になり、テレビや新聞にも取り上げられたことで一躍時の人となる主人公。英雄に祭り上げられたと思ったらとことん落とされる…メディアや集団心理の怖さ。

「うまく騙したな」

囚人仲間の一言が浮かれていた彼の心に一抹の不安を与える。

イランでは、借金が返済できないことで貸主が訴えれば借主は刑務所に送られるけど、囚人には何日か休暇が認められていて家に帰れるらしいが、彼のように極悪人ではない人に限られるのかしら?

とは言え…彼は、囚人なんだよね…

ちゃんと落とし主に金貨を返したのは間違いないのだから堂々としてれば良い!

…筈だった…けれど、そこにはいくつかの嘘があった。そして…逆に言うと…なぜ返そうと考えたのか…これがことの顛末には大きく関わる気がする。

彼を称えて、退所後の仕事まで用意してくれるとか、彼が頼んだわけでもない。それなのに、一度彼のために寄付金が集まったりし始めると、彼が金貨を本当に返したのかが重要視され始めると、ちょっとずつ彼の足元が崩れ始める。まるで、自分が体験してるみたいにリアルな展開。もやるー!

そして現代では急速に広がるSNSでの誹謗躊躇…
インターネットが普及し人々が繋がって便利にはなっても、決して人々の心はひとつにはなれない…🥲

ネットが人間の妬みや暴力がどこまでも人を追いつめる道具になってしまうことの怖さ。

「僕は、あの女の人に会ったよ」吃音症を抱えた主人公の幼い息子が潤んだ瞳でじっと見詰める先にはオロオロしてなにがなんだかわからないまま戸惑い続ける父の姿がある🥲

お国柄もあるのだろうと思うけれど、自分が落し主に会った事実がありながら、子供ゆえに父の力になれない。そのもどかしさに怯える息子の姿を見るわたしたちも何もできないもどかしさをぎゅっと握りしめるしかない。

そして、次第に事の発端がなんだったのかも、何が善で何が悪なのかも分からなくなる。

よ〜く考えれば、主人公は、そもそも借金を返せない服役囚と言うマイナスの立場だった筈なのに、ゼロを通り越してプラスを得ることが当然の権利のように錯覚してしまう。

自分の立場をしっかり見据えることが大事。

ラストも相変わらずなファルハディー節。

じっくりと「反省」を促されるのでした。

ファルハディ作品は4本くらいしか観てないけど、「別離」と同じくらい練り上げられた展開でした。
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